ミンスパイ mince pie
イギリスのクリスマス菓子といえば、クリスマスプディングとミンスパイ
クリスマスディナーのクライマックス、その場に集う家族で取り分けていただくクリスマスプディングに対し、ミンスパイは、ずっとカジュアル! クリスマスからエピファニーまでの期間中、エッグノックやホットワインと一緒に、あるいはブランデーバターやクリームを添えて紅茶のお供にと、1日中楽しめて、「1日1個ずつ食べると来たる年に幸運が訪れる」なんていうジンクスも浸透しているイギリスのクリスマスシーズンを彩るスペシャルな伝統菓子です。
現代のミンスパイは、カップ型に敷いたパイ地にドライフルーツとピール類、ナッツ、スパイス、ブランデー、ケンネ脂:スエット(牛の腎臓周りの脂を刻んだもの)を混ぜ合わせて作る『ミンスミート』を詰め、その上部をパイ地で蓋をしてから星や十字ををかたどった切込みを入れて焼かれるのが定番のスタイル
はっきりした起源については不明ですが、13世紀 十字軍遠征でアラブに赴き、帰還した兵士たちが、遠征先のアラブやヴェネツィアなど地中海の交易都市からドライフルーツやスパイスさらに当時流行っていた調理法も習得してもちかえり、伝えたことに起因するようです。肉と果物をスパイスとともに加熱して生まれる、酸味と甘味の入り混じった奥深い味わいが好まれました。
中世 イギリスではレーズンをはじめとするドライフルーツは地中海から運ばれてくる貴重な食材でした。また肉も高級食材であったため、1年で最も特別な日であるクリスマスのメニューとしてつくられていたようです。
初期は「マトンパイ」「クリスマスパイ」などの名で呼ばれ、パイ生地やビスケット生地をキリストが生まれた時に寝かされた飼い葉桶を表す大きな楕円形にかたどり、上面に切れ込みを入れて口を開け、そこにイエスを表す小さな像を入れてから焼き上げられる宗教色たっぷりのクリスマスメニューでした。 16世紀頃までは羊やウサギ、雉などの肉をミンチにして、スパイスやドライフルーツを加えてフィリングにしていましたが、高価なスパイスやフルーツを使うミンスパイはクリスマスを祝うにふさわしいご馳走だったのです。
こうした中、材料として「刻まれた:minceされた」肉:ひき肉が使われるフィリングは『ミンスミート』それをパイ生地で包んで焼くお菓子は『ミンスパイ』と呼ばれるようになっていきます。
17世紀 清教徒革命の際にはクリスマスを祝うことが禁止されてしまいます。すると、市民たちは憲兵に見つからないよう、クリスマスやイエスとの関係性を感じさせない小さな丸い形に成形する工夫をして作り続けました。
18世紀に入りカリブの植民地から安価な砂糖が運び込まれるようになると、ミンスパイにも砂糖が加わり、甘味が増して、次第にフィリングから肉類が減っていきます。
ヴィクトリア時代(1837年~1901年)には肉の代わりにスエットを入れたものが登場し、現代のミンスパイとほぼ同じスタイルのものと、タンや牛ひき肉などの肉類が入ったものとの両方が作られるようになりました。ビートン夫人の家政書として知られる「Household management(1861)」にも両方のレシピをみることができ、肉入りレシピの材料は レーズンにカランツ、牛肉の赤身とスエット、砂糖に柑橘系のピール類、りんごにナツメグ、ブランデーなどで、これらを混ぜ合わせて2週間漬け込んでから使いましょう。」とあります。そのミンスミートを包むペストリーはバターたっぷり何層にも折り重ねて作るサクサクとした食感のパフペストリー。手間と時間をかけて作る贅沢なクリスマスにふさわしいレシピが紹介されています。
一方 材料に肉が使われないレシピでは、主役はドライフルーツになり、リンゴやオレンジピールそして砂糖が加えられ、お肉料理から甘いお菓子へ…すでにほぼ今日のものと変わりません。
現代のイングランドレシピをご紹介しましょう。ただし、スエットは入手が難しいので、無塩バターにおきかえています。
このミンスミートはミンスパイだけでなく、パウンドケーキに入れて混ぜても、またパイ生地に包んで食べても美味しく頂けます。少し多く作れば、何種類かのお菓子を楽しめますからお試しくださいね。なおミンスミートは味を馴染ませて落ち着かせるために、使う2週間前には作っておいて下さい。
ミンスミートレシピ
《材料》
カレンツ 120g
レーズン 120g
サルタナレーズン 120g
オレンジピール 50g
リンゴ 1/2個 ※細かく刻む
食塩不使用バター 60g
ブラウンシュガー 100g
シナモンパウダー 1/4tsp
オールスパイスパウダー 1/2tsp
レモン(皮・果汁) 1/2個分
ラム酒or ブランデーorグランマニエ等のリキュール 100ml
《作り方》
1.バターを小鍋に入れて弱火にかけ、軽く混ぜながら溶かします
3.鍋を火から外し、完全に冷ましたら、すべての材料を入れたボウルに加えて混ぜましょう。
4.密閉容器に入れ、冷蔵庫で漬けこみ、2週間以上おいてから使います。
ショートクラストペストリーレシピ
《材料》
*薄力粉 200g
*グラニュー糖 30g
バター 100g 1cm角にカットし冷やしておく
卵 (水) 30g
《作り方》
*バターを1cm〜1.5cm角にカットし、冷蔵庫内で冷やしておきます。
① フードプロセッサーに*の粉類とバターを入れ、そぼろ状になるまでまわします。
② ①をボウルにあけ、真ん中にくぼみを作り、少しずつ卵を加え、手を使って生地をまとめます。
水分が足りないときは水大さじ1を加え、一つにまとめましょう。
③ 生地をラップで包み、冷蔵庫で1時間以上休ませてから使います。
フードプロセッサーを使わない場合は、
*を合わせてボールにふるい入れ、バターを加えて指先をこすり合わせるようにしながらさらさらのパン粉状にしたら、卵を加えてひとつにまとめます(水分が足りないときは水大さじ1を加えましょう)ラップで包み冷蔵庫で1時間以上休ませてから使います。
いよいよ仕上げ ミンスパイ
① 休ませておいた生地を2~3mmの厚さにのばします。型にはうすくバターを塗りましょう。
② 焼き型よりひとまわり大きな丸型で抜き、型に隙間なく敷きこみ、フォークで数か所空気穴をあけます。
③ ミンスミートを7分目くらいまで入れます。
④ 残りの生地を2mm厚さにのばし、好みの型で抜きます。全体を覆う場合は、空気抜きのための切込
みを入れるのをお忘れなく。
片面に卵白を塗り、グラニュー糖をまぶしてから④のミンスミートの上にのせます。
⑤ 170℃のオーブンで20分程うっすら焼き色がつくまで焼きましょう。
ジンクスも数々…
長い時を経てきたクリスマス菓子:ミンスパイには数々の言い伝えが残ります。例ば。「クリスマスから1月6日のエピファニー(1/6の公現祭)までの間、毎日1つずつ食べると、来たる1年幸せに暮らせる。」「その年最初のミンスパイを食べるときに、願いことをしながら話さずに食べると願いが叶う。」さらに「ミンスミートを作るときは、必ず東から西へ…時計回りに混ぜないと良くないこが起こる。」などなど 半信半疑ながら、気にせずにはいられない… 笑
中世イエスのゆりかごを模った聖なる神の恵みとして作られたミンスパイは、600年の時を経る中でクリスマスの団欒に食べられる甘いお菓子に変化しましたけれど、クリスマスに欠かせないスペシャルな存在であることは昔と今もかわりません。