マスタード Mustards  芥子 からし 小さな粒にパワーを秘めて…

2010年の3月 インドの首都デリーから、タージマハルのあるアグラに向かう車窓から見たパッチワークのように黄色い畑があちこちに散在する景色は、満開のマスタードに彩られた風景でした。それは私の背丈ほどもある草丈で、インド料理でよく使われるブラックマスタードが栽培されているのだと聞きました。

タージマハル

そんなドライブが突然ストップ!信号などない2車線道路が全面ストップとなり、車両の窓から身を乗り出して前方を眺める人、車から降りて原因究明に奔走する人で騒然! しばらくすると双方向とも動き出し…中央分離帯はないものの、2車線で走っていたはずの道路が行くも帰るも道路の隙を我先に蛇行しながら車を進め、強引極まりない!その上どの車からも大音響のクラクションが発せられ…もう大変! そして分かりました。大型トラックが横転していたのです。さいわい火の手が上がる気配はなく、かといって救急車やポリスカーが来るでもなさそう。大蛇行の中、皆平気な顔して前へ 前へ … これが私のブラックマスタードと結びついた記憶です。その後道はハイウエイとして整備され、中央分離帯も備わったと聞きました。インドのドライバーさん達 交通ルールを守るようになったのかしら… 

さて この『マスタード』アブラナ科アブラナ属の1年草で、漢字表記は「芥子」「芥」は『カラシナ』を意味し、「芥子」は『カラシナの種子』を表します。

そして『マスタード』という言葉は、植物としての「からし」と、からしの種子に酢などを混ぜた調味料:「和からし」や「洋からし:マスタード」の双方をさして使われています。

スパイスとしては3種類

外皮の色で呼び分けられることが多く、スパイスとして使われるのは以下の3種で、「」内は日本での通称です。

イエローマスタード』:「洋からし」「白からし」

ブラウンマスタード』:「和がらし」

ブラックマスタード』:「黒がらし」

3種とも種子や粉末状態だとほぼ無味無臭で、辛みもほとんど感じられませんが、ブラウンマスタード やブラックマスタード は、“シニグリン”   イエローマスタード は“シナルビン”という辛みのもとになる成分を持っています。種子をホールのまま、または粉末にして水やぬるま湯を加えて練ると、共存しているシロシナーゼという酵素が働き、分解されて、シニグリンはアリル芥子油(アリルイソチオシアネート)、シナルビンはベンジル芥子油(パラハイドロオキシアリルイソチオシアネート)という辛み成分を生じます。こうしてはじめて、マスタード特有の辛みが感じられるようになるのです。

アリル芥子油は刺激的な辛み呈し、舌や鼻を刺激しますが、揮発性が高いため、後は引きません。ベンジル芥子油は比較的揮発性が弱いため、イエローマスタード は、マイルドな辛みになります。

 *辛味の強さは  ブラック 〉ブラウン 〉イエロー  です。

この種子を原料にした『粒マスタード』や『マスタードソース』といった調味料は輸入品を含めとても身近ですが、日本では粒状の『マスタードシード』そのものを調理に使う機会は少ないですね。

マスタード シードの特徴と選び方、お奨めの調理法もご紹介しますので、お好みのマスタードシードを見つけて、活用してみてください。

イエローマスタード

《原産地》地中海沿岸

《生産地》カナダ・インド・タイ・オーストラリア

《色》外皮の色が薄く、他の2種より粒が大きく、ホワイトマスタード と呼ばれることもあります。 

《辛味》辛み成分『ベンジル芥子油』は揮発性が弱く、刺激の少ないマイルドな辛味をもち、炒るとナッツのような香りがします。

《抗菌作用》『イエローマスタードシード』の精油に含まれる『ベンジル芥子油』は抗菌・殺菌力が『ブラウン』『ブラック』よりも強い上に、揮発しにくいという特徴を持っていますからピクルスを漬けたり、マリネ料理を作る際には風味付けに加え、カビや細菌を抑える作用を期待して使うのにもお勧めです。

《乳化作用》がありドレッシングに使うと混ざりが良く風味豊かに仕上がります。

ブラウンマスタード

《原産地》中央アジア・中国

《生産地》中央アジア・中国・インド 

《色》茶色の外皮を持っています

《辛味》辛み成分『アリール芥子油』は、揮発性が強く、鼻腔を刺激する強烈な辛味をもつ辛鼻を抜けるツーンとした辛さが特徴的です。

弥生時代に中国から伝わり、以来日本で練りからしなどに使われてきたのは この『ブラウンマスタード』日本では『和からし』の名で親しまれています。

ブラックマスタード

《産地》イタリア・エチオピア・中央アジア

《生産地》インド

《色》黒い外皮をもっていることから『黒がらし』とも呼ばれます。

《辛味》精油に揮発性が強く、鼻腔を刺激する強烈な辛味をもつ『アリール芥子油』を多く含むため、辛鼻を抜ける強烈な辛さが特徴的です。

日本での流通量は他の2種に比べると少ないですが、フランス産の粒マスタードなどの材料として使われ、製品として輸入されて流通しています。

インド料理 特に南インドで、カレー料理の香り・辛み付けのメインスパイスとして

使われます。

【含有成分と効能】

ビタミンB1 糖質の代謝を助けエネルギーをつくり出し疲労回復に役立ちます。

ビタミンB2 細胞の新陳代謝を促進し、皮ふや粘膜の機能維持や成長に役立ちます。

ナイアシン 皮ふや粘膜の健康維持をサポートしたり、脳神経を正常に働かせます。

ミネラル類も豊富 骨や歯を構成するのに役立ち、体の生理機能を保ち健康維持にも有効です。

辛み成分:ブラウンマスタードやブラックマスタードに含まれる辛み成分『アリル芥子油』、イエローマスタードに含まれる辛み成分『ベンジル芥子油』共に、抗菌・殺菌作用が高く、強い抗酸化力を持っています。

☆成人病予防・抗がん・健胃・腸内ガスの排出・食欲増進・強精などにも効果を発揮!

☆ 代謝を促進する効果は脂肪燃焼システムに働きかけ、脂肪を燃焼させるのでダイエットにも効果的

『1日ティースプーン1杯ほどの量を食べると良い』との学会発表もあるようです。

* 漢方では芥子「がいし」と呼ばれ、生薬として発汗促進や感染症に用いられます。

【特徴と利用】

《辛味》

マスタードシードの最大の特徴は、独特の辛みですが、生の状態や乾燥した種子には辛みはありません。種子を潰して水分を加えることによって、精油成分と水分が反応し、辛みが生まれます。この特性を利用して作られているのが『粒マスタード』や『マスタードソース』、『練りからし』などの調味料です。

《香り》

マスタードシードは熱すると、香ばしいナッツのような香りが立つのも魅力です。熱したフライパンに種子を入れ、パチパチはじけるまでじっくり熱すると成分が油に移り、独特の香りと辛みが料理に加わって奥行を与えてくれます。

《抗菌 殺菌 抗酸化作用》

強力な殺菌・抗菌作用をもち、抗酸化パワーも頼もしいので、1日1スプーン量摂取すると健康効果が期待できます。

ピクルスなどに加えると、抗菌・殺菌作用で腐敗防止にもパワーを発揮してくれて頼もしい。野菜たちと一緒にピクルス液に入れるだけで、お野菜は ピリッとスパイシーに。さらにシードのプチプチ食感も楽しめますょ。