柚子胡椒 青も黄もそれぞれ季節を愉しんで…

『柚子胡椒』は柚子の表皮を細かく刻み、これに唐辛子と塩をすり合わせて作られる風味豊かな香辛料です。

『青柚子胡椒』の材料は「青柚子」と「青唐辛子」と「塩」といたってシンプル。熟す前の青い実を使うため、それぞれが揃う夏から9月いっぱいの短期決戦で作られます。そのさわやかで尖った香りと鮮烈な辛味を活かすため、加熱せず、和え物やマリネ、お刺身の薬味として使うとその魅力を存分に発揮してくれます。

秋も深まり、柚子は黄色に、唐辛子は赤く熟してから作られるのが『黄柚子胡椒』です。加熱によって際立つ芳醇な香りとまろやかな辛味が特徴で、冬の煮物や鍋物に嬉しい調味料です。

九州の一部地域で食されていたものがここ20年ほどで全国的に広まって、もはや日本中の食卓に欠かせない人気の香辛調味料になりましたね。そして海外でもyuzu pepperと呼ばれて人気を集めているのですから、「美味しいものに国境なし」の見本のよう。

柚子

柚子は中国揚子江上流周辺を原産とし、日本に渡ばれ、飛鳥及び奈良時代には栽培されていた記載が残ります。柑橘類の中でも最も耐寒性が強いため、東北地方以南で広く栽培でき、ほとんど消毒の必要なく栽培できるのも優れた特性です。ただし、成長が遅いため、昔から「桃栗3年 柿8年、柚子の大馬鹿18年」とさんざんな言われようでしたが、近年接木苗や品種改良種の苗を栽培することで、植樹後数年も待てば収穫が望めるようになっています。かく言う我が家の「本柚子」の苗 5年目にして10個ほど収穫できました。

「本柚子」とは別に「花柚(はなゆ)」や「一才柚子(いっさいゆず)」などの品種もあり、その実は「本柚子」より少しだけ小ぶりですが、よく似ているため、総じて「柚子」として扱われることが多くなっています。とはいえ大きさ・香りとも「本柚子」が秀でているのは否めず〝本〟柚子だけのことはあるようです。

柑橘類の木に備わった棘(とげ):本柚子のものはハンパない迫力ですから、強風に実が揺らされ、自身の棘で実に傷がつくこともしばしばです。これ切ってしまっても成長や結実に問題ないとのことですから、折をみてチョキチョキすればよいのです・・・

柚子胡椒

柚子胡椒の発祥については諸説ありますが、九州地方 大分県が有力とされています。

さて、ここで柚子と唐辛子を材料に作られるのに、なぜ『柚子唐辛子』と呼ばないの?の疑問が湧くところですが…

これにつきましては、柚子胡椒が生まれた九州~西日本の一部地域では「唐辛子」を「南蛮胡椒」と呼ぶことから、柚子に唐辛子を練り込んで作られる調味料は『柚子胡椒』と呼ばれることになった…というのが定説のよう。『唐辛子』は「唐を枯らす」とも置き換えられるため、『唐の国』と交流が盛んだった九州地方の人々は「枯らす」を「唐」の後につける避けたとも…

なお「唐辛子」を「胡椒」と呼ぶ地域では「こしょう」は「洋胡椒」と呼んで区別しているそうです。

青柚子胡椒レシピ

手作りならでは、手作りだからこそ! 香りも色も、もちろんお味も、手間をかけた分の労が報われる素敵な仕上がりです。辛いのが苦手な私は青唐辛子と季節を同じくして出回る甘長唐辛子を合わせて使うことで、辛さの調整をしています。青唐辛子のカプサイシンは強烈ですからゴーグルをして、ゴム手袋をはめて作業にのぞみましょう。

《材料》

唐辛子(2種)と青柚子の重量比が1:1のレシピです。

青柚子        20個 (直径3~4cm位)

青唐辛子       20~25本 (4~5cmのもの)

甘長唐辛子   4~5本(辛味のない唐辛子として使います)

塩              大2/3強

柚子果汁    小1~2…香り付けに

柚餅子:ゆべし

*『ヘタと種を取り除いた唐辛子』+『甘長唐辛子』と『すりおろした柚子の皮』は同重量を目安にしています。

*塩は『ヘタと種を取り除いた唐辛子』と『すりおろした柚子の皮』の総重量の10%~15%が目安です。

*青柚子の果肉は、絞って『青柚子ポン酢』作りに使います。

《唐辛子の処理の際に使うもの》 ゴム手袋 めがね、ゴーグルなど

《作り方》

① 青柚子の皮をすりおろします。

  白いワタの部分が入ると苦くなるので、すりすぎないように気をつけましょう。

② 青唐辛子はヘタを取り、縦半分に切って種を除きます。

  唐辛子のカプサイシンは粘膜を刺激するので、作業はゴム手袋をし、めがねをかけるなどの対策を…

③ ②を荒みじんに切り、フードプロセッサーにかけるか、すり鉢ですって、ペースト状にします。

④ ①と②をボウルに入れ、重さを計り、その10~15%程度の塩と柚子果汁を入れてよく混ぜ合わせます。煮沸消毒したガラス瓶などに入れ、冷蔵庫で2週間程度ねかせて発酵させましょう。

*作りたては青臭みが気になりますが、時の経過とともに旨味が増し、辛味もまろやかになって、色も落ち着いてきます。その後は冷凍庫で保存したほうが色や風味が保てます。冷凍してもシャーベット状を保つので、すぐに使えてお勧めです。

*米麹を全体重量の10%程加えて作ると、発酵が早く進んで味もまろやかに仕上がります。

即席柚子ポン酢  上記のレシピで使った柚子を絞って使います

《材料》

つゆの素(市販のもの)

柚子果汁

水 「つゆの素」に記載された基準の希釈割に従い、水の一部を柚子果汁におきかえます。

《作り方》

① 柚子胡椒作りで皮をむかれた青柚子の果汁を絞ります。

 柚子は果汁が少い果実ですが、くし形にカットして、ギュ〜っと。

② 市販の「つゆの素」と「水」を合わせ混ぜ合わせたら、即席「ポン酢」の出来上がり!

柚子果汁は、ブロック分けされた製氷皿に流し入れ、冷凍しておくと、必要量使えて便利です。

鶏手羽ハーフの柚子胡椒焼き

*鶏手羽中ハーフは小さいので、味がしみ込みやすく、焼き時間が短いのが魅力です。

*塩胡椒とカレーパウダーを合わせてまぶし、同じく2時間~半日おいてから同様に焼くカレー風味もお勧め… どちらもビールに添えて楽しんで…

《材料》

鶏手羽中ハーフ  12本

青柚子胡椒     大1

*「鶏手羽中ハーフ」は*鶏手羽中を半分に切って市販されているものです

① 鶏スペアリブは皮のほうに柚子胡椒をぬり、ポリ袋などに入れて冷蔵庫に入れ、2時間~半日おき、味を馴染ませましょう。

② オーブンペーパーを敷いた天板にスペアリブを並べ、200℃に予熱したオーブントースターで15分 焦げるようならアルミホイルをかけて焼きます。

柚餅子の謎…

長野県で育った私にとって、『柚餅子』は甘く柔らかいお餅の中にくるみが入っているお菓子。どうしてその名に柚の字が入っているのかしらと不思議に思ったものでした。

柚餅子が生まれたのは11世紀末 源平合戦で兵糧に用いられたと伝わるそうですから、ここでも柚子が古くから栽培され、利用されていたことが伺えます。

江戸時代の初期には 柚子の実の中身をくりぬいた柚釜の中に雑穀や木の実・味噌・生姜・胡麻・胡椒などをすり合わせたものを詰めて蒸し、それを干して乾燥させて保存食や携帯食としていた。

その後米粉やもち米に砂糖・醤油を加えて蒸したものを柚釜に詰めて、蒸して乾燥させたお菓子タイプが考案されると、それが変化して地域ごと様々な柚餅子が生まれて行ったというのが、コトの真相のよう。柚釜を使わずに中に詰めていたお餅にくるみを加えて作られる「くるみゆべし」も登場して私はそのニュータイプに親しんでいたものと判明した次第です。