妖精とサンタクロース           

小人の妖精 

ゲルマンの人々の神話では、世界は「神の天界:アースガルド」、「人間が住む世界」、「死者の冥界」からなり、それらを貫いて巨大な世界樹ユグドラシルがそびえ立ち、人間界には洞窟で暮らす小人や、地中で暮らす妖精たちも存在します。古代から人間と共存して、生活に寄り添ってきた小人や妖精たち

スウェーデンではTomtarトムテ、フィンランドではTonttuトントゥノルウェーやデンマークではNisseニッセと呼ばれています。

日本でもおなじみの妖精ムーミン一家と仲間たちは、フィンランドの森の中に住み、妖精にされてしまったニルス少年がガチョウのモルテンに乗って空を飛び、旅をするのはスウェーデンです。

『ニルスの不思議な旅』はスウェーデンの女性作家セルマ・ラーゲルレーヴが執筆し、1906年に初版が刊行された児童文学です。14歳のニルス・ホルガション少年は日曜日の朝、両親が教会に行って留守の間に家に住み着いている妖精を見つけて虫とり網で捕らえます。約束を破って妖精を怒らせてしまったニルスは魔法をかけられ小人の妖精にされてしまうのですが、動物と話ができる能力を授かります。ニルスはガチョウのモルテンやガンの群れと一緒にスウェーデン中を旅をしながら成長し、モルテンとともに両親のもとに帰ってきたのでした。

TomtarトムテTonttuトントゥNisseニッセ その姿は小さな子供くらいの大きさで、赤いニットの帽子に、半ズボン、木靴をはいて家や納屋、家畜小屋などに住んでいます。優しい性格で家を守り、家畜の世話を手伝い、家事も助けてくれるのですが、気難しい一面もあって、大事に扱われなければ干し草を両手いっぱいに抱え、納屋の道具も持って家を出ていってしまう! いたずらをされると怒って人間に殴りかかったり大暴れすることもあるのです。

(中央)庭に住む妖精トムテとミルク粥スウェーデン(右)www.catherineandgraham.ca 

気持ちよく過ごしてもらえば、その家に幸福をもたらしてくれるのですから、大切にしなくてはいけません…。そこで北欧各国では昔から冬至のお祭り「ユール」の日に、キリスト教が普及してからはクリスマスイブの夜、妖精に日頃の感謝を込めてお粥『ポリッジ』を用意する習慣が続いてきました。

ほのかに甘いお粥ポリッジを一皿と、ビールを1杯 馬小屋などに供えて、「どうぞ召し上がれ…」

時とともに…

スウェーデンのTomtarトムテ、フィンランドのTonttuトントゥ、ノルウェー・デンマークのNisseニッセ…それぞれ人々に寄り添い大切にされて来た妖精たちは、キリスト教化が進み、商業化されたサンタクロースのイメージが世界的に広がる中で、その影響を受けつつ次第に変化変身して今に至っています。

スウェーデン…ユールトムテ

現在スウェーデンの人々はサンタクロースを『ユール・トムテ』と呼んでいます。その意味は「冬至祭の妖精トムテ」 キリスト教の世界ではサンタクロースのモデルは聖ニコラウスであり、「セント・ニコラウス」から「サンタクロース」の呼び名が生まれたのですが、『ユール・トムテ』との関係性はありません。

時の流れの中でゲルマン人の冬至の祝祭『ユール』と、妖精『トムテ』がキリスト教の聖人由来の『サンタクロース』の呼び名になっていった…

その経緯はといいますと、キリスト教化が進んでも人々は昔ながらの信仰も持ち続け、トムテを身近に感じて暮らしていました。一方キリスト教ではトムテは闇の世界の神々と交信しあう悪魔とみなし、否定し続けるのですが、人々の心から妖精トムテが消えることはなかったのです。

20世紀に入り北欧でもアメリカの商業主義的なクリスマス文化の影響が強くなると、プレゼントを抱えてクリスマス:ユールの頃にやってくるサンタクロース像がトムテに重ねられていきました。そしていつしかトムテは『ユールトムテ』と呼ばれ、スウェーデンにおけるサンタクロースとしてソリに乗ってやって来て子供たちにプレゼントをくれる優しいサンタさんになったのです。 

ただし、ユールトムテがアメリカモデルのサンタクロースと違うのは、そのソリを引くのはトナカイではなく2頭の黒山羊…その由来は北欧神話の神 トールが操って空を駆ける戦車「チャリオット」を引く2頭の黒山羊のイメージが重ねられたといわれています。

(左)2頭の黒山羊の引くチャリオットに乗り戦う農耕と戦いの神トール

(右)猪を従える豊穣の神フレイ

ここでも北欧神話の神とキリスト教が作り上げたクリスマス文化の融合がみられ、我が国の神仏融合にも通ずるような現象が起きています…

 

チャリオットを引いた黒山羊さん…今では藁で作られ、スウェーデンユールのシンボル『ユールゴート』になっています。 1900年代のポストカード

デンマーク・ノルウェー… ユーレニッセ 

デンマークやノルウェーの妖精は『ニッセ』と呼ばれます。こちらもスウェーデンにおける経過同様キリスト教化が進む中でクリスマスにプレゼントをもって現れるサンタさん『ユーレニッセ』へと変わってきました。

そしてこちらも、『ユーレニッセ』が乗るソリを引くのはトナカイではなく、豚や山羊…神話の英雄 フレイ神のお供をしている豚や、トール神のチャリオットを引いた黒山羊さんが活躍しているのです。

(左)ノルウェー1900年代 (右)ノルウェー1992年のポストカード

フィンランド… ヨウルプッキ

フィンランドではサンタクロースを『ヨウルプッキJoulupukki』といいます。直訳すると「クリスマスの山羊」これはキリスト教伝来以前クリスマス時期に行われていた『ヨウル 』:「冬至の祭り」の習慣に由来し、「山羊」も他の北欧諸国同様トール神のチャリオットを引く黒山羊がモデルです。

フィンランドのクリスマス『ヨウルの祝祭』では「ヨウルウッコ」と呼ばれる老人が、「 ヨウルプッキ」というヤギに扮した男性と数人連れ立って家々を回る風習がありました。

出典 https://www.patheos.com/blogs/matauryn/2017/11/30/the-yule-goat/

ヨウルプッキは羊の皮をまとい、本物のヤギの角を付けた作り物の頭をかぶって、雄ヤギに扮した男たちが家々を巡り、子供達に1年間良い子にしていたかを問いただし、悪い子にはお仕置きをしたのでした。秋田のなまはげのように、その出で立ち振る舞いから子供達には大変に怖がられていたようですが、一団はお酒を振舞われ、供物をもらって村の家々を練り歩いたのです。その一団は『ヨウルプッキ』と呼ばれ、いつしかヨウルの祝祭も『ヨウルプッキ』と呼ばれるようになっていました。

100年ほど前になると、ヨウルプッキの振る舞いはソフトになり、子供達にお行儀をよくするよう教え、プレゼントを配ってくれる優しいおじいさんに変わっていきました。

1931年コカ・コーラ社が赤いサンタの広告を打つとそのイメージは世界中に広がります。

北欧でアメリカイメージのサンタクロースが定着するのは 1980年以降のこと…ヨウルプッキは赤い服ととんがり帽子をまとうように変わっていきました。

 

現代のヨウルピッキは「良い子はいるかい?」:Onko taalla kiltteja lapsia?…といいながら、一軒一軒ドアをノックして訪れ、子供達はヨウルプッキの膝の上に座ってクリスマスソングを歌います。子供達はヨウルプッキのプレゼントを心待ちにしていて、配るのを手伝うこともあるほどその関係はフレンドリーに変わっています…。