メーゼシュカラーチ Mézeskalács 

メーゼシュカラーチ は400年の歴史をもつハンガリーの伝統菓子です。

ハンガリー語でMezesは「蜂蜜の」、kalacsは「ミルクパン」から『Mezeskalacs』

王家によって養蜂が奨励されたハンガリーでつくられていた蜂蜜ケーキに、15世紀半ばスパイスが加えられて生まれました。

その作り方は、薄力粉と砂糖、シナモン、クローブ、ジンジャーなどのスパイス類、重曹をベースに、蜂蜜とバターそして卵を加えて作った生地を半日ほどおいて馴染ませてから、薄くのばして型抜きして焼きあげます。焼いて2~3日後からが味が馴染んで食べ頃に… スパイスと蜂蜜効果で日持ちもします。
スパイスが香り、サクッとした食感が魅力のメーゼシュカラーチはクリスマスやイースター、地域のお祭りにも欠かせません。

近年アイシングで装飾を施したものが主流となり、その技法や表現は進化を続け、芸術の域に達するほど!国際的にも注目を集め、ますます国民から愛されています。

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          ハンガリーの蜂蜜と蜂蜜パン

ハンガリーはヨーロッパの中央 ドナウ川中流に広く盆地状に開けた平原に位置しています。

この地域は1世紀から4世紀までローマ帝国の属州地としてパンノニアと呼ばれており、ブダペストにある当時の遺跡アクインクムからは、小麦粉と蜂蜜をこねた生地を詰めて型を抜き、蜂蜜パンを焼くために使った陶器の型が発見されています。

冷涼で乾燥した草原が広がり、遊牧に適していたため、4世紀後半からは中央ユーラシアからアジア系遊牧民がやってきて 、ここを根拠地にしてヨーロッパに侵入する部族もありました。

ウラル山脈付近から遊牧騎馬民族マジーャル人がこの地に移住し、1000年にはアールパード家のイシュトヴァーン1世がキリスト教に改宗 ローマ教皇からハンガリー国王として戴冠し、ハンガリー王国を建国 アールパード朝の成立です。

11世紀 王国では国王が養蜂を奨励し、修道院は独自の養蜂場をもって、蜂蜜パンや蜂蜜酒を作っていたことを伝える記録が残っています。

この頃の蜂蜜パンは陶器の型を使って型抜きして焼かれ、そのモチーフは神々、皇帝、武将、日常の生活シーンなどでしたが、貴重な蜂蜜を使う蜂蜜パンを食べられるのは王家や貴族、教会関係者など一部の人たちに限られ、結婚式や洗礼式など人生のセレモニーやクリスマス、イースターなどの祝祭の宴で振舞われたり、贈り物として使われました。

            メーゼシュカラーチ の誕生

1400年代の半ば マティアス王の時代には、ウィーンから運ばれたスパイスが蜂蜜パンに加えられ、『メーゼシュカラーチ』が生まれました。

1526年オスマン帝国の侵略にあい、ハンガリーは領土の一部を奪われます。この戦いで王家の後継者が途絶えたため、王家と親戚関係にあったオーストリア・ハプスブルク家の当主オーストリア大公よってハンガリー王位が世襲されることになりました。

その後ハプスブルク家はオスマン帝国を排斥し、ハンガリーのほぼ全域を領土にしていきます。

ハンガリー初のメーゼシュカラーチギルドは、1619年にブラチスラヴァ(現スロバキア)で設立されました。 その後も各地にギルドが設立され、発展していきます。

この頃になるとケーキの抜き型は陶器製に代わって、木質の硬い梨かくるみのプレートが使われるようになり『ハンマー』と呼ばれました。彫刻はメーゼシュカラーチ専門の彫り職人によってなされ、焼き上がりの生地離れをよくするため、菜種油などを塗って仕上げられたということです。

そのモチーフは揺りかご、ブーツ、スリッパ、人形、馬車、はさみ、ライオン、時計、パイプ、ライフル、人魚、葉巻など

*以下 ハンガリーとルーマニアの博物館所蔵の木型を年代を追ってご紹介します。

(左)『ローマの戦闘車』ブダペスト アクインクム博物館所蔵

(中央)(右)クルージュナポカ民族博物館所蔵の木型

(左:表面)トランシルヴァニアのミハーリーアパフィ王子の紋章が刻まれた木型

   直径27cm  梨の木  ブダペスト芸術美術館所蔵

(右:裏面)1671年 薬剤師Andreas Bertramの家族の紋章が刻まれています。

*モチーフは文字やレリーフによってメッセージや広告の役割を担うこともありました。

(左)『聖ジョージとドラゴン』直径28cm  ブダペスト芸術美術館蔵

(中央) 17〜18世紀 27 x 19.6 cm  ブダペスト芸術美術館所蔵

(右)木型押圧作業の様子です。

(左)ハート 1976年 民族誌レキシコン590ページより

(中央)畑のオンドリ ブダペストKiscelli Museum所蔵

(右)ハート 36 x 28 cm 19世紀後半 広葉樹木型 デブレツェン デリ美術館蔵

以下5点はクルージュナポカ民族学博物館(現ルーマニア)所蔵の木型です。

木型右端『ねんねこの赤ちゃん』は中央ヨーロッパ全域で使用された最も一般的なモチーフの1つで、結婚や出産のお祝い品としてよく使われ、新婚旅行に出かけるにあたり、男性が女性にプレゼントしたとも伝わります。

ヨーロッパでは生まれた赤ちゃんを白い亜麻の布で顔以外の全身を包帯を巻くようにぐるぐる巻きにする習慣があり、僻地では20世紀まで残っていたほど根強いものだったのですが、亜麻の白布を伝統のマチョー 刺繍を施したリボンテープ代えた姿がハンガリーらしいところです…                                           マチョー刺繍のテープ↓

メージェスカラーチの取引について記載された17世紀の紙面によると、修道院や薬局、街の中央広場で開催されるファーマーズマーケットなどで販売され、結婚式など各種祝い事では引き出物としても使われていたことがわかります。

19世紀初頭には農村部にまで浸透し、販売されるようになりました。

              木型からアイシングへ

1850年代 ドイツのレープクーヘンが、彫りを施した木型に生地をプレスし、レリーフを浮き上がらせる手法から、金属製の抜き型で型抜きした生地を焼いて、その表面に、チョコレートやアイシンで装飾がなされるようになると、それはすぐにヨーロパの国々に広まっていきました。

ドイツのレープクーヘンにおきた変革の影響を受け、 ハンガリーで新たに生まれたメージェスカラーチは、こげ茶色に焼きあがった生地に蜜ろうやゼラチンを赤い食用色素で色付けしたぺーストをかけて鮮やかな赤色に塗りあげ、色とりどりのアイシングでモチーフを描いて飾られました。職人の工夫と技の向上により、芸術的価値をもつほどのものも現れて、通常は食用とされず、ギフトとして贈られたり、装飾品として飾られるようになっていきます。

真っ赤なハート型のメージェスカラーチにはその中心に小さな鏡が貼られ、アイシングの白い文字で愛のメッセージが添えられます。このハートは愛の告白の必需品で、このプレゼントを受け取ることは、プロポーズを承諾すること…男性は 彼女の持つ真っ赤なハートの中心にある鏡の中に自分の顔を見て、彼女の心の中に自分がいることを確信するのだとか…

↓以下は1967年 ブダペスト メーゼシュカラーチ売店の様子です。

20世紀初頭、華やかで魅力的なスィーツが次々に考案されると、メーゼシュカラーチは衰退し始めます。一部の職人は新たなペストリーの製造に切り替えましたが、製品に新しい技術とデザインを追加しながらメーゼシュスカラーチを作り続けた工房もありました。壁に古い梨の木の木型が大切に飾られ、伝統の製法を守るベーカリーには、より洗練されカラフルになったメーゼシュカラーチ が並びます。

また近年国内外の作家が斬新で芸術性の高い作品を発表して注目を集め、メーゼシュカラーチはパン職人の工房でのみ作られるものではなくなっています!

以下その作品の一部をご覧ください。

            アドヴェントリースにも…

メーゼシュカラーチ は日持ちがすることから、リング状に焼いて、クリスマスを迎えるためのアドヴェント・リースとして用いられるのもハンガリーらしい使い方です。
アドヴェントは、クリスマス前の最後の日曜日からさかのぼって4週間目の日曜日(11月下旬)から始まる“待降節”のこと。リースには4つの穴があけられて、そこにキャンドルが立てられます。

4つのキャンドルは「信仰」「希望」「愛」「喜び」の意味をもち、クリスマスまでの日曜日ごとに1本ずつ点灯していきながら、人々はキリスト降誕の意味をかみしめ、クリスマスを待つのです。

その色は、3本が悔い改めを表す『紫色』、1本はクリスマスを迎える喜びを表す『バラ色』(ピンク)というのが定番で、12月24日のクリスマス・イヴには4本のキャンドルの灯全てが揃い、イエスの降誕を祝います。

            伝統のフォークアート

バロックの時代 細やかに彫り込まれた木型で実現させたジンジャーブレッド の精緻で豊かなモノトーンの表現も素敵でしたが、アイシングによって現されるカラフルで華やかな現代の表現もまた素敵… 

アイシングペイントに多用される花やパプリカなどのハンガリアンモチーフは、ハンガリーに伝わる刺繍やペイントの表現から影響を受けていると思われますので、刺繍を中心にハンガリアンフォークアートの世界も覗いてみましょう。

右の地図は個性あふれる刺繍が伝わる6地域です。そのうち世界遺産にも認定されるいる2地域をご紹介します。

               カロチャ刺繍

ハンガリー平原を流れるドナウ川のほとりにあるカロチャKalocsaの街とその周辺の村で作り継がれてきた刺繍です。

150年以上前カロチャの町のセイドレル家の女性たちが衣服や身の回りのファブリックに白い木綿糸で刺繍やカットワークを施したところ、カロチャ女子達に評判となり、その白糸刺繍は周辺地域に広まっていきました。

その後黒や青、赤、紫などの色が加わって、少しずつカラフルに…とはいえ、専門の職人やアーティストによるものではなく、美しいのもが大好きな女性達の手によって育まれていきました。そのモチーフはバラやスミレなどの花々や、カロチャ名産のパプリカなどの農作物で、刺繍枠を使わず、図案の大部分をサテンステッチで仕上げるため、少し立体感が出るのが特徴です。

主に礼拝やお祭りの時に着る民族衣装に施され、おしゃれの楽しみとして母から娘へ伝えられて発展していきました。

若い未婚の女性は、赤やピンク、黄色などの華やかな色で刺繍された衣装をまとい、歳を重ねるにつれてブルーなどの落ち着いた色使いに変わっていきます。また紫を基調としたカロチャ刺繍は略式の喪服として着用され、「悲しみのカロチャ」と呼ばれるように…

19世紀半ばには民芸品としての価値を持ち始め、女性たちは仕事としても刺繍を行うようになります。その後染色技術の発逹により実現した32色の鮮やかな色糸を使う色彩の豊かさから、「Cifra Kalocsai チフラ カロチャイ」の言葉も生まれ、国が刺繍製品の輸出を奨励したことも推進力となり大きく発展、文化として根付いていきました。

カロチャは世界大戦後ハンガリー民芸の中心的役割を果たし、その豊かな色とデザインが用いられたハンガリー柄の家具や陶器なども国際的に人気を集めています

カロチャ  Viski Karoly Museumの1室

                マチョー刺繍

ハンガリー北東部に位置するマチョー地方 メズークヴェシュドゥMezőkövesdの街

を中心にマチョー族の人々が200年もの間継承してきた伝統刺繍です。 

図案の主役はハンガリーで神聖な花として尊ばれている『シャクヤク(Pünkösdi rózsa)』で、当地では、通称『マチョーのバラ』と呼ばれ、この刺繍には欠かせません。

その他チューリップをはじめとした様々な動植物がモチーフになっています。

赤と青の木綿糸で刺されていましたが、時代が進むにつれて色数が増え、絹糸が使われるようになると、艶やかで高級感のある作品も作られるようになっています。クッションカバーなどのファブリック、ブラウスなどの衣服、さらにベッドや椅子の部分飾りなどインテリアにも刺繍作品が使われるようになり、作品の幅が広がってきました。

この刺繍は始めに赤・青・黄・緑・黒の5色を使って刺し、次にトーンの違う赤と緑、さらに紫糸を施していきます。黒は大地、赤は喜び、黄は太陽、青は悲しみ、緑は追悼と、色にもそれぞれの意味があり、緑は第一次世界大戦後に喪の色として使われるようになったということです。

素朴で温かみのある作品には〝力強さ〟を感じますね。

カロチャ刺繍は刺繍枠を使わず指に布を巻きつけるように刺しますが、マチョー刺繍は枠を使い、サテンステッチと、アウトラインステッチで刺されます

マチョー地方には独特の生活習慣や工芸品が伝わり、その1つマチョー刺繍が注目を浴び始めたのは1860年代から

古くからハンガリーでは家屋に1部屋「清潔の部屋」と呼ばれる客室を用意するのが慣習がありましたが、この頃になると、マチョーの一般家庭でもその部屋をカラフルな皿やジャー、ペイントを施した家具、刺繍をたっぷり施した寝具など、地域に伝わる独特の工芸品で豪華に飾るようになり、それが他地域の人たちの注目を集めるようになっていきました。その中で伝統工芸としてのマチョー刺繍も人々に認められていったというわけです。

マチョー 文化財保存地区『HADAS』民家売店の1角

Matyo Museumの1室

小さなメーゼシュカラーチの上で花開いた華やかで美しい世界に文化の香りが漂うのは、ハンガリーで古くから培われたデザインや色使いが反映しているからのような気がします。

なにはともあれ、ハンガリーの人たちは美しいものが好きなんですね。手間暇を惜しまない姿勢にも敬服です。

映像出典

 

木型各種http://sparheltblog.blogspot.com/2012/12/mezeskalacs-tortenete.html

赤色ハートhttp://www.hungarianhouse.org/en/december-7-8-9-3rd-hungarian-heritage-festival-advent/

https://www.atlasobscura.com/articles/hungarian-gingerbreadポストカードhttp://www.hungarianhouse.org/en/december-7-8-9-3rd-hungarian-heritage-festival-advent/

ハートhttps://www.atlasobscura.com/articles/hungarian-gingerbread

メーゼシュカラーチ https://sobors.hu/receptek/mindig_puha_mezeskalacs/

https://proaktivegyesulet.hu/2018/12/18/a-legtutibb-karacsonyi-mezeskalacs-recept-ezt-ki-kell-probalnod/

リースhttps://www.meska.hu/img/product/large/p/o/pozsumi_product_18791_121121093831_1.JPG?utm

http://4.bp.blogspot.com/-fOdDo-0mIUs/Un-Th4Z2CnI/AAAAAAAAE0E/x_JCGvMa8T4/s1600/adventikoszoru3.JPG

http://www.mohakonyha.hu/2010/11/mezeskalacs-adventi-koszoru-1.html

http://www.mohakonyha.hu/2011/12/mezeskalacs-ajtokoszoru-mecsestarto-es.html

https://ilbiscotto.blog.hu/2016/12/04/mezeskalacs_advent_koszoru_858

http://www.mohakonyha.hu/2010/11/mezeskalacs-adventi-koszoru-piros.html

刺繍地図https://www.felissimo.co.jp/shopping/I180742/GCD685639/

刺繍4点ttps://www.jtb.co.jp/myjtb/card/travel_life/column/article225.asp

http://peng.tokyo/アッシジ刺繍/ハンガリー刺繍/