ビバリ , ビーバーフラーデン … スイス アッペンツェル …

チューリッヒから列車でザンクトガレンへ さらに私鉄に乗換えて45分ほど走るとアッペンツェル・インナーローデン準州の州都アッペンツェルに到着します。駅前から続くおおらかな並木道が迎えてくれるこの小さな村では山での放牧と酪農、副業の養豚がさかんで、雪の多い冬の間 女性たちは刺繍をして過ごしてきました。街の中心を横切るメイン通り「ハウプトガッセ」には教会、礼拝堂、修道院、市庁舎など16~17世紀の建物に続いて商店が連なります。独特の切妻屋根の建物に描かれた色鮮やかで可愛らしい壁画や看板を眺めながらの散策はおとぎの国に迷いこんだかのようで心地よく、昔ながらの製法を受け継ぐビールやチーズ、レースや織物、カウベル飾りなどの特産品はどれもとびきり美味しく個性溢れて魅力的 観光客にも人気です。

この小さな農村アッペンツェルにも15世紀のうちにビメンツェルテが伝わり、16世紀にはクリスマスのお祝いケーキとして作られるようになると、アーモンドペーストを挟んだ手のひらにのる 小さなサイズのビーバーが作られたのです。

その愛称は名詞の後につけて「小さくて可愛いもの」という意味を付加する接尾語「リ(li)」が付けられて、「ちいさなビーバーちゃん」『ビバリBiberli』!

商品化され、販売されると、のコンパクトさから日々のおやつとして歓迎され、観光客のハイキングの携帯食料としても人気を集めて、日本とスイスを結ぶ機内で、おやつ菓子として提供されたこともありました。

最も流通量の多いビショフベルガーBischoh berger社のビバリの表面には聖ガルスの伝説に登場する木材を運ぶクマさんのレリーフが浮かんで愛らしく、それを包むパッケージにはアッペンツェル出身の農民画家によって描かれた四季折々の生活風景がプリントされて、中身はどれも同じと知りながら全てのデザインが欲しくて買い求めてしまうのです。でも大丈夫。油脂が使われず、蜂蜜とスパイスのバランスが絶妙なビバリは、胸焼けすることも、食べ過ぎて苦しくなるなんていうこともありませんから。

こうして200年を経た今 ビバリはスイスのどこに行っても見つけることができるスイス人に最も愛されているお菓子のひとつになっています。

ビーバーフラーデン

1800年代半ばアッペンツェルで、『ビバリ』に続いて『Biberfladen ビーバーフラーデン 』が生まれました。

直径30cm、重量300gほどの円形で、高さ約3~4cm に焼き上げられ、ペーストなどの詰め物をせず、表面にフォークで線を描いて仕上げるのが定番スタイル

生地の材料となるのはスペルト小麦粉、小麦粉、蜂蜜、スパイス、砂糖、卵、牛乳、塩で、従来のビーバーの材料に卵や牛乳が加えられたことで、焼き上がりは柔らかくふんわり…

スパイスの配合は作り手ごとに異なりますが、 通常…シナモン、アニス、スターアニス、ショウガ、クローブ、コリアンダー、カルダモンに加え、『白コショウ』や『フェンネルシード』も使われるのが特徴です。

アーモンドペーストを詰めないため、ビーバーフラットブレッドの価格はビーバーの半分ほどで抑えられるのも魅力でした。

1800年代半ばには地域新聞のクリスマス広告に掲載され、さらに1881年発刊の雑誌に…「ビーバーフラットブレッド」は、アッペンツェリアで新たに誕生した「蜂蜜生地から作られたケーキ」として紹介されています。以来ビーバーフラットブレッドは地元民の圧倒的な支持を得て、バターを少量のせて、またコーヒーや紅茶に浸して、さらにワインに合わせて…と、日々愛されています。