食べられるクリスマスツリー『クラウゼツーク Chlausezüüg 』
『クラウゼツーク Chlausezüüg』 は「Chlause:聖なる」「züüg:もの」からなる言葉
南ドイツから伝わったシュプリンゲルレから『デヴィスリ』が、レープクーヘンからは『クラウゼビクリ』と、カラフルで地元感溢れるお菓子が生まれると、アッペンツェルの人たちは、それらを使ってスペシャルなクリスマスツリーを創り出しました。それが『クラウゼツーク』です。
アッペンツェルのクリスマスを100年余りにわたって飾ってきた『クラウゼツークChlausezüüg』の構造は、一番下にミルクボウルが置かれ、中はくるみ等のナッツ類、りんご、梨やヤマモモなどのドライフルーツで満たされます。木製ボウルは牧畜農家が牛乳をすくうために使うもので、このシーズンは室内に場所を代え、大きなクラウゼツークを受け止めて大活躍です。
ミルクボウルがいっぱいになるとそこからは、『Filebrood フィレブロート』『Filerring フィラーリング』などアッペンツェル生まれの「クリスマスの編みパン」や『Biberfladenビーバーフラーデン』 を五角形または六角形に、上に向かうにつれて細くなるように積み上げて、クラウゼツークの基礎となるボディー部分を作ります。ボディー部分だけで1m以上になる堂々としたものも多く、隙間にはくるみやナッツ、ドライフルーツ、りんご等が詰め込まれて、それは保存食品タワーとも言えそう。
ここで使われるパン『Bröötis ブローティス』はクリスマスシーズンにアッペンツェルで焼かれる様々な編み込みを使ったパンの総称で、その生地はバターを加えず、小麦粉、牛乳、植物性の油と塩に酵母を加え発酵させたもの。
キリスト教ではイエスの誕生を祝う祝祭クリスマスを迎えるにあたり、節制しながら心の準備をする40日間:待降節には肉や卵などの動物性食品やバターなどの油脂、嗜好品の摂取を控える断食が課されていますから、アッペンツェルのブローティス生地もそれに準じた材料で作られたというわけです。
個性あふれるブローティスをご紹介しましょう
『Filebroodフィレブロート』=縄組されていない外輪に、真ん中に四重平編みと、円形の外輪の間に6個のS字型の生地が配される円形のパン(写真:左)
『Fileringフィラーリング』=紐状の4本の生地をリング状に上向きに編んだパン(写真:中央)
『Tafel Vögelターフェル フォーゲル』=ジェニパーベリーの目と小さな頭を持つ4羽の鳥を編み込んで四角い板にしたパン(写真:右)
『Tafle-Zöpf ターフェル ツォップフ』=三つ編みの鳥の代わりにシンプルな4つの編み込み
アッペンツェルミュージアム提供の1960年のクリスマスシーズン 地元ベーカリーの様子から…今も変わらぬ伝統のパンがこんがり美味しそう…
基礎となるボディー部分が出来上がると その外周にクラウゼビクリやデヴィスリを飾り、その間に真っ赤なりんご『chlausenäpfelクラウセアプフェル』が結ばれて、頭頂部にモミの木をのせたらクラウゼズイクの完成です!
1958年 アッペンツェルの家庭でクラウゼツークを作る兄妹…クラウゼビクリの間から編みパン『フィレブロート』やくるみがのぞいていますね。↓
他地域のクリスマスツリーにあたるクラウゼツークですが、アッペンツェルの人たちは、クリスマスを祝った後も続く雪が多く寒さが厳しい冬の間『クラウゼツーク』から『クラウゼビクリ』や『デヴィスリ』、くるみやドライフルーツを取り外し、少しずつ食べて春の訪れを待ったのです。滋養に富んで貴重な食材を詰め込んだ『クラウゼツーク』は冬の間の食料庫!つつましくほっこり温かいスイス北東部の山村の暮らしぶりには、生活を愉しむ知恵と工夫がいっぱいでした。
2度の世界大戦中に食料が配給制となり、クラウゼツーク作りに必要なクラウゼビクリやブローティスやファイルブレッドを焼くことができなくなったのを機にクラウゼツークのボディー部分は、木枠に置き換えられました。
こうしてクラウゼツークの食料庫としての役割は失われてしまいましたが、アッペンツェルのクリスマスツリー:クラウゼツークは健在で、街の木工細工店の店頭にクラウゼツーク専用ボディーがディスプレイされていました。
絵心あふれるアッペンツェルの人々により『ビバー』に絵付けが施されて『クラウゼビクリ』が創り出され、乳白色の砂糖菓子に着色して『デヴィズリ』が生まれ、地域独自のクリスマス食材を総動員して作り出されたのが、食べられるクリスマスツリー『Chlausezüügクラウゼツーク』
Chlauseはclaus =「聖なる」 züügはzeug=「物」を表す言葉です。それを併せ持つ『Chlausezüügクラウゼツーク』は「聖なるクリスマスの物」アッペンツェルのクリスマスを全部詰めこんだもの Chlausezüügクラウゼツーク… なるほどのネーミングですね
以下は2023年12月 アッペンツェルの街で見つけたクラウゼツークたちです。
絵本『Albert』
『Alnert』は作者アルベルトの子ども時代を描いた自伝的絵本です。アルベルトは絵を描くのがなによりも好きな子供でした。修行して一流の菓子職人になりましたが、絵を描き続け、絵描きになる夢をかなえます。アッペンツェルの四季の移り変わりと人々の営みが綴られ、本人の子ども時代を描いたこの絵本は、1987年 彼の50才の誕生日に出版されました。その後日本語にも訳されて『ちいさなアルベルト―アッペンツェルのある男の子のお話』として出版されています。本の中ではクラウゼツークは『おかしの塔』と表され、クリスマスの前日アルベルト少年が窓からのぞく中 とうさんが飾り付けをしています…。