カンバーランド・ラムバター Cumberland rum butter 

私がカンバーランドラムバターと始めて出会ったのは20年近く前に湖水地方を訪れた時のこと。ピーターラビットのお話そのままの景色が残っているウインダミアのティールームでクリームティーをオーダーすると、スコーンに添えられて出てきたのが茶色く艶やかでクリーミーな『カンバーランドラムバター』でした。ざっくりしたスコーンに濃厚なラムの香りと深い甘さのバターのコンビの相性の良いこと! 帰国して再現してみたいと思い、ティールームのご主人に材料と作り方をたずねたところ、「バターとブラウンシュガーを混ぜ合わせ、さらにラム酒を加えてよく混ぜる」とのことで、その時は再現するのは案外簡単かも…と期待が膨らんだのですが、現実は帰国後現地で舌が覚えた味に近いラムバターを再現するまでに10年以上の時が必要となってしまいました。その経緯はマイラムバターのレシピとともにお話するとして、先ずはカンバーランドとラムバターについてからお話を始めましょう。

(左)wikipedia,(右)https://www.travel-zentech.jp/world/map/british/Map-Cumbria.htm

カンバーランドはイングランドのほぼ中央 湖水地方に存在した長い歴史を持つカウンティ(行政区)の名前です。

現在は隣接する地域と統合され「カンブリア」とカウンティ名は変わってしまいましたが、ヴィクトリア女王即位のころには、女王の父方の叔父カンバーランド公爵の所領であり、広く海に面している地の利から、貿易で栄えた歴史を持っています。

17世紀から18世紀にかけてイギリスが西インド諸島に砂糖のプランテーションを建設すると、カンバーランドのホワイトヘブン・ワーキントン・メアリーポートの港には西インド諸島やカリブ海周辺の島々から大量の砂糖やスパイス、ラム酒などエキゾチックな品々が運び込まれました。それらは当時としてはたいへん珍しく高価な食材でしたが、そこに働く人々は給金の代わりに現物支給を受けることもあり、ジンジャーやシナモン、ナツメグなどのスパイスやドライフルーツ、ラム酒などが早くから現地の人々の食生活に取り入れられ、浸透していきました。

そんな事情を背景に18世紀頃生まれたのが「カンバーランド・ラムバター」です。バターにたっぷりのブラウンシュガー、そしてラム酒を混ぜたもので、そこにナツメグでアクセントをつけた味も好まれています。トーストやスコーン、クラッカーに塗ったり、クリスマスプディングやミンスパイに添えることも。船乗りが持ち帰り、その家族がラム酒とバター、砂糖を混ぜ合わせ、ペースト状にして作ったのが始まりといわれ、湖水地方では今も変わらず瓶入りのラムバターが売られていて、観光客にも人気です。詩人ウイリアム・ワーズワースが暮らし、終の棲家としたグラスミア村のショップ『Sarah Nelson’s Grasmere gingerbread shop セーラネルソンのグラスミアジンジャーブレッド ショップ 』にも、名物のジンジャーブレッドとともに、『カンバーランドラムバター』が並んでいます。

このラムバター 古くはChristening(洗礼式)と深く関わるものでした。

カンブリア地方では、洗礼式に参列してくれた人々にオーツ麦のケーキにラムバターを添えて振舞う慣習があり、ラムバターは蓋付きの器に入れられていて、食べ終えた客人達はその中にシルバーコインを入れて返します。瓶を返すにあたっては、残ったラムバターでコインをべたべたにしてから瓶に戻す…がお決まりで、当時貴重だったラム酒とバターと砂糖をたっぷり使ったラムバターをまとったコインには、生まれたばかりの赤ちゃんが一生お金に困ることなく暮らせるように…との願いが込められていたのだそう…。母親の産後の健康回復にも良いとされ、ラムバターはたっぷり用意されたといいます。

ウインダミア のティールームでカンバーランドラムバターに出会った私は、その後『セーラネルソンのジンジャーブレッドショップ『Sarah Nelson’s Grasmere Gingerbread Shop』を訪れ、 グラスミアジンジャーブレッド とともに、カンバーランドラムバターを買い求めて帰ったのでした。

「バターとブラウンシュガーを混ぜ合わせ、さらにラム酒を加えてよく混ぜる」の教えに従い作ってみるも、その味はラム酒の強い香りとアルコールばかりが際立って、ティールームのそれとは程遠く…いつしか再現を諦めてしまっていたのですが、ハレて納得風味のラムバターを作り出すことが出来たきっかけは、熟成ラムレーズンにありました。子育て中手作りのケーキを作る回数が増え、大量のレーズンをラム酒に漬けるようになると、使い切れずに半年、1年とレーズンがラム酒の中に置き去りにされることとなり、その間ラム酒にはレーズンの風味と甘みがたっぷり染み出して、ラム酒はまったりと深みのある甘みと香りを身にまとったのです。

それを使ってラムバターを作ってみると大当たり!そのレシピをご紹介します。

先ずは熟成ラムレーズンを漬け込むところから…時が作ってくれる美味しさをお楽しみください。待った分だけ美味しい!がかえってきます。

《材料》

熟成ラム酒     20ml(小4)

食塩不使用バター     120g 常温にもどしておく

ブラウンシュガー     120g

*「熟成ラム酒」は、ラムレーズン作りに使ったラム酒です。『ラムレーズン』『熟成ラム酒』についてはこちらから…

《作り方》

① 常温に置き柔らかくなったバターをボールに入れ、ホイッパーでバターが白っぽくなるまでよく混ぜ、ブラウンシュガーを加えてさらに混ぜます。

② さらに熟成ラム酒も加えてよく混ぜ合わせたら出来上がりです。