アドベントカレンダー Advent calendar
アドベント:Advent は、ラテン語で「到着、到来」を意味する「アドベントス」を起源とする言葉で、キリスト教ではイエス・キリストの人間界への到来を重ねて、『イエス・キリストの降誕を待ち望む期間』として用いられています。
贖罪と断食をしてキリストの降誕を待つ
ヨーロッパのキリスト教社会では5世紀後半から、アドベントは「クリスマスを前に罪を償い、飲酒を控え、肉食を絶って食事も慎ましく、心身を浄めてキリストの生誕を待つクリスマスの準備期間」とする定義が定着していきました。
その期間は、クリスマスの4週間前の日曜日から、クリスマス・イヴまで。実際には、11月30日の「聖アンデレの日」に最も近い日曜日から、クリスマス・イヴまでですから、早くて11月27日、遅くて12月3日には始まります。最初の日曜日を「第1アドベント」とよび、第2アドべント 第3… 第4アドベントがくれば、クリスマスはもう目前
アドベントカレンダーが生まれたのは19世紀初頭ごろ。クリスマス・イヴまでの時間を子どもたちが楽しく過ごせるようにと、ドイツのルター派:ルーテル教会の信徒たちの間で工夫されたのが始まりです。
その頃の様子を1851年にドイツ人女性Elise Averdieckエリーザ アバーディエックによって出版された児童書にみることができます。そこには「毎晩、エリザベスがベッドに入る前、母親は彼女にクリスマスの起源についてお話しをしてくれました。その後、2人はたくさんのクリスマスキャロルを歌い、壁にクリスマスにまつわる絵を掛けます。毎晩1枚ずつ…24枚すべてが壁に掛かると、エリザベスはクリスマスの日がやってきたことを知りました。」 とあり、就寝前のひと時を母と過ごすエリザベスの輝く笑顔が浮かびます。心も身体も温かい幸せな記憶は一生の宝物
ほかにも子供たちは、12月1日になるとドアやたんすにチョークを使って24本の線を描き、それを一日ずつ斜線で消して日数をカウントダウンしたり、1本の長いロウソクに24のメモリを付け、12月1日から毎日1メモリずつ火を灯したり、アドベントを迎えて飾られるキリスト降誕の場面を表した模型:『クリッペ』に置かれた飼い葉桶に毎日1本ずつ麦わらを入れてその数を数えたり…、さまざまなカウントダウンを楽しみながら、クリスマスを心待ちにしたのでした。
(左)https://zen.yandex.ru/media/id/5faa768318291115008e4155/adventkalendar-chto-eto-takoe-i-gde-poiavilsia-iznachalno
(右)『Krippe』 フランクフルトのKaiserdom:聖バルトロメウス大聖堂にて
印刷されたアドベントカレンダーとして最も古いものは1902年にドイツのハンブルクで発行された『子供のためのクリスマス時計』です。 12個の数字が描かれた文字盤パネルには聖書の一節やクリスマスキャロルの歌い出し部分が添えられ、回転する真ちゅう製の針を備えています。子供達は毎日1回針を隣のパネルに移動させながら、カウントダウンしていきました。
12月1日から24日までのパネルが並ぶ現在のアドベントカレンダーの原型は、バーデン=ヴュルテンベルク州の州都シュトゥットガルト近くのマウルブロンで、プロテスタントの牧師の息子として生まれたGerhard Langゲルハルト・ラング(1881-1974)が幼い頃のアドベントの思い出に着想を得て作ったものでした。
母は幼いラングのために厚紙にレープクーヘンが入った24個の袋を貼ってカレンダーを作ってくれました。12月1日になると、ラングは毎日1つずつ袋をはずし、おやつの時間を楽しみながら、残った袋を数えてクリスマスを待ったのです。その習慣は彼が大人になるまで続きました。
成人したラングは、友人のReichholdと共にミュンヘンでReichhold&Langという会社を起こし印刷業を始めます。そこで彼は母が作ってくれたレープクーヘンカレンダーからアイデアを得て、リトグラフを使ったアドベントカレンダーの製造を思いつきます。
『Im Lande des Christkinds:キリストの子の地で』という題名で1908年に発売された最初のアドベントカレンダーは、イラストが描かれた印刷紙と台紙の2枚が1セットになっていました。イラスト紙には24個の枠が整然と並び、23コマには天使がクリスマスの準備をしている様子が描かれ、24コマ目では天使がベルを鳴らして幼児キリストの到来を告げています。台紙の24コマの枠にはそれぞれの絵に対応した短い詩が書かれていました。イラストは当時大変人気のあったイラストレーター リヒャルト・エルンスト・ケプラーが担当し、詩はラングが作ったものでした。
一部詩の内容をご紹介しましょう。
12月6日は「寒いので手袋をはめたクネヒト・ループレヒトが、森にクリスマス用の木を切りに行きます。天国で飾り付けをするのです。大きな袋にはいろんなものが入っています。良い子にはナッツを悪い子にはムチを」。
12日は「天国のお菓子屋さんは大忙し。白い帽子をかぶった小さな天使のお菓子屋さんは、夜も昼も休む間もなし。粉をこねて形を作ったら、お日様にあてて焼くのです」。
そしてハイライトの24日「けさ早く幼児キリストの羽の音が聞こえました。今日はクリスマス。待つのはもうおしまい。まもなくツリーのローソクに火が灯ります。夢に見たものがロウソクの明かりに照らされて、もうすぐ部屋に現れるのです。クリスマスおめでとう」。
12月1日になると子供たちは慎重に画像の1枚を切り取り、それを台紙カレンダーの上に接着して、短い詩を1つずつ隠していきます。24種類のクリスマス画がそろうと、待ちに待ったクリスマス…隠れてしまった詩を思い出したい時は…ご安心ください!裏面に同じ詩が印刷されて、読むことができるように配慮されていますから。
このカレンダーはドールハウスや太鼓、人形、兵隊、ノアの箱舟セットなど当時の子供がプレゼントにもらったおもちゃ、そしてアドベントの期間にたくさん焼かれたレープクーヘンやクッキーが描かれ、ツリーにはガラス玉やロウソク、りんごが飾られて、当時のクリスマス風景を思い描くことができことも興味深いものです。
初のアドベントカレンダー発売から10年 Reichhold&Lang社は新たな発想のカレンダーを思いつきます。それは描かれた窓が開き、扉をあけると部屋で思いおもいに過ごす子供が顔を出すというもの。
デザインは女性画家ドラバウムDora Baum(1881-1949)に託され、『Christkindleins Haus:キリストの子供の家』という名前が付けられました。
第一次世界大戦(1914-1918)の間、カレンダーの生産はほぼ停止しますが、戦後1926年には窓を開けてチョコレートを取り出すタイプが登場します。それを企画したのもReichhold&Lang 社でした。「クリスマスローズ」と名付けられ、窓の中には20種類のチョコレートが収められていました。
1930年代、ドイツ経済の奇跡と言われる戦後の好景気とともに、アドベントカレンダーの需要はドイツ全土で急速に増加し、1930年代後半には、多くの企業が制作販売するようになるとともに、多くの親が子どものためにアドベントカレンダーを自作するようになっていきました。
しかし第二次世界大戦が勃発すると、戦争がアドベントカレンダーの上にも影を落とします。
ナチス政府によって絵の入ったカレンダーの販売が禁止され、Reichhold&Lang 社も1940年に閉鎖を余儀なくされてしまいました。
1940年代にアドベントカレンダーの生産を許されていた唯一の会社Franz Eher Velagは、ナチスの体制下の基準を満たすため、「アドベント・カレンダー」ではなく「クリスマス前のカレンダー」という名前で、伝統的・宗教的な内容の代わりにイデオロギー的なシンボルを入れたカレンダーを作るよう求められました。
戦後アドベントカレンダーの販売の禁止が解かれると、Richard Sellmerという人物がRichard Sellmer Verlagという出版社を起こし、アドベントカレンダーを復活させます。
下の写真は同社が戦後初の1946年に販売した『The Little Town』という名のアドベントカレンダーです。
1958年には再びチョコレート入りが登場し、アドベントカレンダー人気は世界的なものとなっていきます。
それにともない、さまざまなタイプのものが登場するようになりました。
1950年代 ドイツ 組み立て式:カットアウトシート お菓子の家カレンダー↓
1960年代デンマークのユールカレンダーPloufmann ↓
毎年新たなデザインで発売され、人気のLEGO ADVENT CALENDAR
右は2019年発売の HARRY POTTER シリーズ↓
マーベル–アドベントカレンダー↓
Living Advent Calendar
建物の窓をカレンダーに見立てて装飾して楽しむのが『Living Advent Calendar』です。
スイスの中世都市 ルツェルン ロイス川に沿ってカペル橋を右手に眺めながら進んでいくと、対岸に大きな数字がいくつも書かれた建物が見えてきます。建物自体が12月1日から24日までを数えるアドベントカレンダーになっていて、日を追うごとに窓が一つずつ開かれます。昼はカラフルなペイントが可愛らしく、夜はライトアップと川面に映えるライトが幻想的です。↓
by https://swissjoho.com/christmas-market-selection5/
ロンドン フォートナム&メイソンの店舗…アドベントの装飾↓
アドベントカレンダー 7点はhttps://jolablot.com/history-of-the-advent-calendar/より