Pepparkaka ペッパーカーカ                         

北欧諸国のクリスマス『ユール』に欠かせないスィーツの1つが「ジンジャークッキー」

スウェーデンでは『ペッパーカーカ』と呼ばれ、クッキー生地にシナモン、クローブ、カルダモン、ジンジャーなどのスパイスを混ぜて薄く伸ばし、型で抜いて焼かれます。北欧では薄めにパリッと焼き上げるタイプが好まれ、スウェーデンでも11月に入るとアドベントを前に、どの家庭でもたくさんのペッパーカーカ を焼き、毎日少しずつ?食べてはクリスマスを待つのです。

13世紀 北欧諸国はドイツ中北部の商人達とハンザ同盟を結び、物資の流通が盛んに行われていました。そんな中、ドイツからの移民によってスウェーデンにスパイスケーキが持ち込まれます。その頃のスパイスケーキには胡椒が入っているものもありましたが、当時スパイス全般を『Peppar 胡椒』と呼んだことから、「ケーキやクッキー」を表すkakaまたはkakorと合わせて「スパイス入りのケーキ」といった意味合いの『ペッパーカーカ』です。

Vedstenaヴァドステナ修道院に残る書面に、「1444年修道女が消化不良改善のためにスパイスケーキを焼いて食べた。」との記述が残り、そのケーキの材料にはジンジャー、シナモン、クローブに加えて、ペッパー、カルダモン、アニス、フェンネル、シダーオイル、レモン、ザクロの皮も使われ、蜂蜜で甘みをつけていたとあるそうですから、とてもリッチな配合ですね!

https://www.upplevvadstena.se/en/churches.htm

 カルマル同盟によりスウェーデン・ノルウェー・デンマークの3国を治めた王ハンス(1497~1501年)が気難しく気性が荒いことを憂慮した医師がスパイスケーキを処方して勧めたところ、王は精神の安定を得ることができたとの記録が残っています。

宮廷がコペンハーゲンの薬局からジンジャーブレッドを数キロ取り寄せた記録も残っており、となるとハンス王が摂取されたスパイスはかなりの量!そこに蜂蜜も加わるのですから滋養もたっぷり補えたことでしょう。スウェーデンには『blir snäll av pepparkakor』「ペッパーカーカを食べると、元気になって、優しく寛大になれる」との言い伝えが今なお残るそうですから、王様の治療は順調に進んだということですね。きっと…

16世紀になるとペッパーカーカ は修道院、薬局、町の広場で開かれるファーマーズマーケットなどで「消化を助け、気分を安定させ、うつ病を予防する医療用の薬」として販売されるようになります。保存されている輸入品の倉庫リストによると、南ドイツの街ニュルンベルクからスパイスケーキ『レープクーヘン』が輸入されていたこともわかっています。

17世紀 そのレシピが料理本に掲載され、『ペッパーカーカ 』が市民の間に定着し始めます。

19世紀 小麦粉と砂糖の流通量が増えて購入しやすくなると、庶民もクッキーやケーキ作りを楽しめるようになり、ペッパーカーカが高価な医薬品から、特別の日に食べる祝い菓子としてクリスマスに結びつけられていくのもこの頃

精緻な彫刻の施された木型に生地を詰め、押し付けたものを抜き出して、焼きあげられていたペッパーカーカですが、産業主義の広がりとともに生地を薄く平らに伸ばし、金属製のカッターで型抜きされるように変わっていくと、抜き型のデザインに注目が集まるようになりました。

修道院で使用されたのは愛のシンボルである「ハート」、クリスマスにはシンボリックなデザインとして、星、男性と女性…、そして欠かせないのがプレゼントを積んだユール・トムテのソリをひく『ユールゴート 山羊』です。というのもアメリカで出来上がったサンタクロースのイメージが伝わって浸透する前、そしてスウェーデンにキリスト教が伝わるずっと前からユールの日には、「妖精ユール・トムテ」と「ユール・ゴート山羊」がプレゼントを運んできて、ドンドンたたいてドアを開け、プレゼントを投げ入れていったのですから、『山羊』さんは外せません。

ペッパーカーカーはアイシングで飾られてツリーや窓辺にも飾られます。

ドイツからスパイスケーキが渡って800年 スウェーデンの人たちは薄〜くパリッと焼き上がったペッパーカーカを好みます。レシピに「生地は非常に薄く 約1/8インチに伸ばして…」とあるほど!薄くてパリッのペッパーカーカは海外にも輸出されて人気を得、「ジンジャーシン ginger thin」(thin=薄い)と呼ばれています。

そんな極薄のクッキーを使って何世紀にも渡って楽しまれているゲームをご紹介しましょう。

先ずペッパーカーカを手のひらに置いたら、心静かに願い事をしながら空いている手の人差し指または親指でペッパーカーカの中央を押してください。…薄いビスケットが3つに分かれれば、願い事がかなう… 3つに分割されなかったら、小さく割って食べること… 

『アンナビスケット』1929年、スウェーデンのストックホルムで、アンナ・カールソン夫人と妹のエマが手づくりで作ったペッパーカーカが始まりです。スウェーデン王室御用達の名誉を得、日本にも輸出されていますから、お馴染みですね。ストックホルムのスーパーには大箱が山積みされ、同生地のお菓子の家キット こちらも山積みになっていました。

スウェーデン生まれの作家アストリッド・リンドグレンの作品『長くつ下のピッピ』ピッピはお隣に住むトミーとアンミカを招き、ペッパーカーカーとコーヒーでお茶会を催すことに…床にいっぱいに生地を広げて500枚ものハート型のペッパーカーカを焼こうと奮闘します。

世界中の子供たち、そして大人達にも愛され続けるシーンが切手になって、気持ちと一緒にスパイスの香りまで運ばれそう…

お隣の国フィンランドにはピパルカックを砕いて入れて作る『ルーネベリのタルト』がありますが、スウェーデンには『mjukpepparkaka ミュークペッパーカーカ』があります。

こちらはスパイスを加えた生地にペッパーカーカを砕いて混ぜ混み、リンゴンベリー(こけもも)のジャムやヨーグルトも入れて焼き上げるケーキです。パウンド型やクグロフ型に入れて焼いたものから小さな円盤型のものまで、スパイス生地を柔らかく焼きあげるタイプ全般を「ミュークペッパーカーカ』と呼ぶようで、その意味は、「柔らかいジンジャーブレッド」 ジンジャーブレッドと同じスパイスを使ったケーキです。

*近年ペッパ―カーカーにブルーチーズやゴルゴンゾーラチーズをトッピングして、グロッグと合わせるのが人気… ワインに合わせてもよさそうですね。