父、息子の情熱が今に伝わる 『スポードSpood』

12世紀から続くイギリス陶器の故郷ストーク・オン・トレントの街で、1759年ジョサイア・ウェッジウッドが「ウェッジウッド窯」を創設

ウェッジウッドが「ウェッジウッド窯」を創設

それから10年余りを経た1770年 同じ街で陶器作りの修行に励んでいたジョサイア・スポード1世がスポードSpode窯を開きます。ジョサイア・スポード1世は16歳で陶器工場の徒弟となり、優れた才能を発揮した逸材です。

2人のジョサイアが生きた当時は、オリエンタルなブルー&ホワイトの食器が人気を集めていましたが、市場に出回っているものはほとんどが中国からの輸入品で、イギリスには中国陶器に勝る製造技術がありませんでした。

シノワズリ:中国趣味の美しいブルー&ホワイトの陶器を自力で作りたい…その思いからスポードは、後世に残る数々の技術を開発し、イギリス陶磁器界に革新をもたらしました。

↓18世紀初頭 中国から運ばれたブルー&ホワイトの磁器でお茶を楽しむ家族

 

中国製の茶碗は「ティーボウル」と呼ばれ、たいへん高価な憧れの的でした。

茶碗の高台と縁をもってポーズをとる姿は、高価なブルー&ホワイトの磁器を見せるため…ともいわれますが、薄い磁肌はお茶の熱がダイレクトに伝わり、持ちにくいもの。18世紀半ばになるとイギリス国内でハンドルがついたティーカップが作られるようになっていきます。

そのスポードの功績として挙げられるのは…

銅板転写による下絵付けの技法の開発

ボーン・チャイナ」の完成 

ブルー&ホワイト『ブルー・イタリアン』と『ブルー・ルーム』を完成させたことでした。

銅板転写による下絵付けの技法の開発 と「ブルーイタリアン」

スポードを代表する功績の1つに、1784年に銅板転写による下絵付けの技法を開発したことが挙げられます。

銅板転写による下絵付けの方法は下記のような工程で進められます。

① 銅板に何種類ものニードルを使って手彫りで柄を刻んで銅板画を完成させます。

② 出来上がった銅板に陶磁器専用のインクを塗って、薄い半紙(ティッシュ)に柄をプリントします。

③ 素焼きした器にプリントを施した紙をあて、湿気を与えてから軽くこすり、紙を定着させてプリントを転写します。

④ 紙をはがし、高温で焼成し、絵柄を食器に焼き付けて完成です。

18世紀中頃までは絵付けは全て手描きで行われていたため、大変な手間がかかり、ブルー&ホワイトの器は王侯貴族のみに許された贅沢なものでしたが、18世紀末 スポード社が実用化した 銅板転写 の技術によって、憧れの器は一般の家庭にも普及するようになったのです。

ストーク・オン・トレントにあるスポードのミュージアムには、銅板転写で使われる銅板や印紙が数多く展示され、作業の工程を知ることができます。↓

ボーンチャイナの完成

マイセンでヨーロッパ初の磁器が作られたのに続き、ヨーロッパ各国で国産磁器が作られるようになっていきましたが、イギリスでは原材料となる鉱石:カオリンが採掘できなかったため、苦戦が続いていました。

そんな中 ストーク・オン・トレントで素地の中に動物の骨を混ぜて焼成すると、素地が薄いにも関わらず柔らかく透明度の高い独特の輝きを持った乳白色の磁肌が出来る革新的な技術が開発されると、スポード窯の創業者ジョサイア・スポード1世は、試行錯誤の末 牛の骨灰(ボーンアッシュ BONE ASH)を混ぜることで素地をほぼ完ぺきな白磁に近づけることに成功します。1790年頃のことでした。

スポード1世は志半ばで亡くなりますが、その後息子スポード2世が、それまで20%の割合で混ぜていた骨灰を、50%まで増加させて実用可能なボーンチャイナの製造に成功 

1799年薄く美しい乳白色の磁肌の噂を聞きつけた当時の英国皇太子(のちのジョージ4世)が自らスポードの工場を視察されると大いに気に入られ、ファインボーンチャイナの作品はすぐに王室に届けられるようになりました。その後1806年皇太子はスポードのボーンチャイナを「王室御用達」に任命しています。

こうして完成したイギリス独特の磁器は、生地に25~30%以上の骨灰を含むものは『ボーンチャイナ』、50%以上骨灰を含むものは『ファインボーンチャイナ』と呼ばれるようになって世界中の人々を魅了し続けながら現在に至っています。

さらにスポードは優れた銅板転写技術を駆使して後世に残るデザインのブルー&ホワイトシリーズ『ブルー・イタリアン』と『ブルー・ルーム』をつくりあげています

『ブルー・イタリアン Blue Italian』

1816年 スポード社はオリエンタルな模様の縁取りの中に、美しくのどかなイタリアの風景が描かれた「ブルー・イタリアン」のティーセットを発表します。…それは白磁に銅板転写を施す技術で作られました。

熟練陶工であったスポードⅠ世の息子スポード2世は、ビジネスセンスにあふれた人物で、ロンドンにあるスポードのショールームを任されていました。銅板転写技術により量産化に成功したブルー&ホワイトの陶器が人気を博し、食器のセットを買い求める顧客であふれるショールームを切り盛りしていたのですが、この頃、イギリスの貴族や富裕層の子息がグランド・ツアーと称して古代文明が栄えたギリシャやローマや見聞旅行をするようになります。それにより東洋の美のトレンドが、西洋的の古典的な風景への憧れに移り変わりつつありました。

スポード2世はこの傾向をいち早く見抜き、東洋と西洋の2つをうまく融合したデザイン、つまり伊万里焼のような縁取りの中に、イタリアの田舎の風景を描いて組み合わせた「ブルー・イタリアン」のティーセットを作り上げたのです。

原画はオランダの画家フレデリック・モーヘンの絵…1600年代後半のローマ近郊の風景がテーマで、ローマ建築の建物、水道橋、牛の水浴び、草を刈る男女が描かれています。

ローマの情景に皇太子好みの伊万里写しの装飾模様の縁取りを合わせ、ブルーの濃淡だけで表現された素朴な美しさは簡素なインテリアにも合ったため、労働者階級の家庭でも広く人気を呼び、ロングセラー商品となっていきます。そしてこのシリーズは、現存するテーブルウェアのデザインの中で最も古いものの1つになっています。

さらにもう1つ…『ブルー・ルーム』

「ブルー・ルーム」コレクションは18世紀に使用されていた手彫りの銅板を復刻したデザインで、ブルー・ローズやゼラニウムなどの花、古代ギリシャやインドの風景、イソップ童話をモチーフにしたものなど、さまざまな絵柄が楽しめ、こちらも長く人気を保つシリーズになっています。

クリスマス気分を盛り上げるシリーズも…

スポードは、青と白の陶器以外にもさまざまなシリーズを作っています。

中でも特徴的なのが、「クリスマス」に関連したシリーズ

白地に緑のツリーが映える『クリスマス・ツリー Christmas Tree』は1938年に発表され、愛らしいツリーのシリーズが大人気商品となりました。

ツリーの最上部にはサンタクロースが…背負った袋にはまだまだプレゼントがたっぷり入っていそう。

樹上にサンタさんがいるのは珍しいデザインですね。カップの内側に描かれているヤドリギが、また楽しい…🎄