アニョーパスカル Laqneau pascal   

フランス語でアニョーは「仔羊」、パスカルは「パック=復活祭の」から名付けられた仔羊形の焼き菓子『アニョーパスカル 』は、その名前からも察せられるように、復活祭の時期にのみ焼かれて、食べられてきたフランス アルザス地方のスペシャリテです。

アルザス語では「ラマラLammele」、「オステルラマラ」とも呼ばれるこの焼き菓子の歴史は古く、復活祭に神への生け贄として捧げられていた仔羊の代用につくられるようになり、16世紀には前身となる仔羊形のお菓子が焼かれていた記録が残ります。

500年作り継がれて、現代では復活祭の日 ミサから帰って、家族そろって囲むティーテーブルの主役です。

その焼型として使われてきたのがアルザス北部のスフレンハイムSoufflenheim村名産の厚手の陶器型で、仔羊の頭から尻尾へ縦二つに分かれる形 これを大きな金具ではさむように留めて逆さにし、中に生地を流して、焼けたら再び金具をはずすと型が左右に分かれて仔羊が現れるのです。陶器の内側は顔の表情や毛並みまで細かく表現されており、厚手の陶器を通じてやわらかく伝わる熱でやさしい焼き色と食感が生み出され、この焼型あってこそのアニョーパスカル!といえそうです。

愛らしい姿に作業中も焼きあがっても情の移る焼き菓子で、食べてしまうのは忍びない…ナイフを入れる瞬間胸が痛むのょね~ なにはともあれ、アルザスの風土そのままの素朴でやさしく、可愛いらしいお菓子です

スフレンハイム村は隣接するアグノーの森から陶器づくりに適した良質の粘土が産出されたため、古代から陶器づくりが行われてきましたが、1142年に神聖ローマ帝国の皇帝フリードリヒ1世が、地元の陶器職人組合に森から粘土を掘り出す特権を与えたことで陶器づくりが地場産業になりました。

私がストラスブールから北に40Kmほど 車で約1時間のスフレンハイム村を訪れたのは2019年の11月末 この時期のアルザスの村はクリスマスマーケット目当ての観光客でいっぱいのところもあるけれど、一般の観光コースからは外れているため、訪れるのは陶器目当てのお菓子作り好きさんのみといった印象で、特産の陶器同様明るいおおらかさが魅力の村でした。

人口5000人ほどの村には13軒の陶器工房兼ショップがあり、工房ごと それぞれ独自の色付けや絵柄に個性があるので、どのお店をのぞいても新鮮で飽きません。

お店のディスプレイに加え、陶器の色や絵付けに温かみのあふれるFriedmannフリドマン商店をご紹介しましょう。 クグロフやベッコフ用の陶器鍋だけでなく、想像を超えた色、形、デザインの陶器が空間をいっぱいに使って陳列されていて、み~んな欲しい! 衝動を抑え、当初の目的を優先して、アニョー型を2つ購入 機内持ち込みにして大切に連れ帰ってまいりました。写真の下方床に置かれたアニョー型の中で最も小さなサイズ:横の内径が14cmほどの羊ちゃんを2頭です。

↓ 左の写真は店舗 右はお向かいにある工房です。

ショップ情報はこちら↓をご参考になさってください。

Poterie Friedmann
住所:3 Rue de Haguenau, 67620 Soufflenheim
電話番号:03 88 86 61 21
HP:http://www.poteriefriedmann.fr/

村のインフォメーションに立ち寄り、散策マップを手に入れ、お話を伺ったところ、「1900年代末 大量生産の工業製品や安い輸入品におされて30以上あった工房が半減する事態に陥ったそうですが、2000年以降世界各地から観光客が来るようになり、アルザス地方のクリスマスマーケットの隆盛に伴い、マーケットへの出店や販売の機会も増えて工房の経営は持ち直している。」…とのことでした。私もまた行きたい… 同じ思いの人が多いのでしょうね。

さあ、そうして持ち帰ったアニョー型を使ってアニョーパウカルを焼く… 年に1シーズンのみのお仕事ではありますが、年々型にバターが馴染んで、焼き上がりも滑らかになってきたようです。

14cmの型2台分のレシピをご紹介します。

                アニョーパスカル レシピ

《材料》14cmのアニョー型 2個分

バター        75g

砂糖         100g

卵          2個

ラム酒        大1  牛乳に代えても…

小麦粉        100g

コーンスターチ    25g

ベーキングパウダー  小1

《作り方》

型にはバターを塗ってから強力粉を振り、余分な粉は落としておきます。室温におき、柔らかくしたバターを指で塗るのが一番 指先で加減しながら毛並みの凸凹に塗り残しなく作業しておくと、焼き上がりが滑らかで、型から外すのもスムーズです。

① バターをクリーム状になるまでよく混ぜ、砂糖、卵、ラム酒の順で、混ぜながら加えます。

② 小麦粉、コーンスターチ、ベーキングパウダーを合わせてふるいながら加え、切るようにさっくりと混ぜて、型に流します。

③ 180℃に予熱したオーブンで40分焼きます。

④ 粗熱がとれたら、型をはずします。

茶こしを使って粉糖をふったり、リボンでおめかしすると、いっそう可愛らしく華やぎますょ…

フランス の北東部に位置するアルザス地方は、ライン川を隔ててドイツと隣接しているため、独仏がその領有権を巡って争いを繰り返した歴史があります。ボージュ山脈とライン川に挟まれたその地は、点在するワインの産地をつなぐ『ワイン街道』が縦断し、葡萄、小麦、果物類に加え乳製品と農作物に恵まれ、さらに鉄や石炭といった地下資源も豊富でしたから、争奪戦を免れず、フランスとドイツが交互に領有を繰り返し、第二次大戦後はフランス領に…

文化も独仏双方の影響を受けながら融合して、独自のアルザス スタイルが出来上がっています。そんなアルザス地方の中心都市ストラスブールの街並みと、レストラン『GURTLERHOFT』にて地元ワインと一緒に楽しんだ名物の薄焼きパイ『シュークルート』、12月6日 の『聖ニコラの日』子供達が楽しみにしているパン『Manala マナラ』の写真です。アルザスからの風をお届けできますように…