ユールと北欧神話の神々

 

         ユール  北欧語:Jul、英語:yule

『ユール』はキリスト教の布教が進む以前 ヨーロッパに住むゲルマン民族の間で行われた冬至の祝祭です。

冬の長い北欧では、日が短くなると太陽の再生を祈り、冬至を界に再び力を増す太陽を神聖で貴重なものと崇めました。冬至の日から新な年が始まると考え、前年の収穫と一年の無事を神に感謝し、来る年の豊穣と家内安全を願ってお祝いをしたのが『ユール』です。

火を焚き、北欧神話の神で豊穣を司る『Freyフレイ』や戦争と死の神『オーディン』に生贄として雄豚やビールを捧げました。

(左)19世紀に描かれたフレイ。剣を持ち、猪と共にいる。

(右)6本足の馬スレイプニルを駆るオーディンと、彼に付き従う大烏フギンとムニン、狼のゲリとフレキ(挿絵画家ローランス・フレーリクによる1895年の作)             出典 Wikipedia

中世の頃には親族や集落の人々が集まり火を焚いてその周りで歌って踊り、神への供物とした豚を食べ、ビールを飲んで連日宴会を続けました。

その宴席には亡くなった人の霊も参加すると信じられていたといいます。

焚き火『ボーンファイア』は暗闇や寒さと戦う太陽の象徴とされ、祭りは冬至から年明けまで続きました。

 

10世紀になると北欧諸国もキリスト教化が進み、12月25日がクリスマスと定められ、ユールの時期はキリスト降誕を祝う季節になりました。

しかしユールの伝統は残ります。焚き火はクリスマスの朝に点火されることになり、翌年1月6日の公現祭の日まで燃やし続けられるようになりました。

北欧では『ユール』はクリスマスを指す言葉となっています。

そしてそのテーブルにはかつて生贄とされた豚肉のハムが欠かせません。

 

*公現祭:東方の三博士が、流れ星に導かれてベツレヘムに到着し、馬小屋のわらの中に寝かされているイエス・キリストの誕生を確認し、祝福した日(1月6日)が『公現日Epiphany エピファニー』 その日を祝うのが公現祭です。

イエス・キリストがはじめて他者(異邦人)と会ったことで、神を信じるすべての人々にあまねく神の教えが伝えられた大切な日とされ、キリストの降誕の祝賀は降誕日12月25日から公現日1月6日までの期間とされています。

☆エピファニーを祝ってフランスで食べられるのが『Galette des roisガレット・デ・ロワ』(王様のガレット)です。中に1つフェーブが入っていることなど楽しい趣向もあり、近年日本でも注目されていますね。

*新約聖書にはイエス・キリストは馬小屋で生まれたとありますが、その誕生日を明示する記載はありません。

キリスト教の布教が進んでも、人々は依然として先祖伝来の民間信仰の神々を敬い、その信仰に伴う生活習慣も根強く残っていました。ユールの祝祭もその一つです。

そこで西暦350年頃 教会は教皇や司祭たちで協議の結果「12月24から25日をイエス・キリストの降誕を祝うクリスマスとし、教会で厳粛にミサを行う…」と定めたのでした。

その結果クリスマスは定着し、キリスト教の一大行事となりました。

それに伴い『ユール』は「昔の冬至祭」となりましたが、北欧を中心に人々は今でもクリスマスを「ユール」と呼び、古くから続く信仰や生活習慣も依然大切にされているのです。

                                    ユールログ

ユールは太陽の復活を祝う宴ですから、途中で火が消えてしまうとその翌年は不吉なことが起こると怖れられていました。

その薪には魔力があり、燃える火は太陽の輝きを助けるとともに、悪霊や悪魔から家族を守ってくれる。反面この火の影に頭が映らなければ、その年のうちに死ぬともいわれ、畏敬の念をもたれていたのです。

その灰は病気や雷に効き目があると信じられ、さらに飼葉に入れると牛が安産となり、土に入れると豊作に、井戸に入れると水の味が良くなるなど、様々なご利益をもたらしてくれるありがたいものとして大切に使われました。

 

古来焚き木の中でも最も太い焚き木を『ユールログ』と呼び、リボンを付けて飾られました。そして太陽が復活する冬至の日に新年の家内安全と豊穣を祈る思いを託して薪にくべられたのです。

時代が進み、屋外での焚き火が屋内の暖炉に変わっても薪を飾る習慣は残ります。

中世ドイツでは森で伐採した巨木をリボンで飾り家へと運ぶにあたって、同行しているうちで最年少の者は、薪の上に乗ることができました。

ブルターニュでは、家族の最年長者と最年少者がこの薪に乗って、祈りをささげたといわれます。

薪を取る木は、スコットランドではカバノキ、フランスプロバンスでは果樹、セルビアではオークやオリーブ、ブナが用いられました。              (下)出典 Wikipedia

薪を家に運び入れる際には、ワインや穀物を振り掛け、燃やす前にはチョークで人形を描いたり、常緑樹の葉やリボンで飾ったりもしたということです。

 

19世紀をピークにユールログを準備して暖炉で燃やす風習は姿を消していきましたが、フランスのパティシエがこのユールログを模して考案したのが、切り株型のクリスマスケーキ『ブッシュ・ド・ノエルbûche de Noël』です。

                           ワイルドハントWild Hunt 

北欧に限らず広くゲルマンの世界で9世紀頃から14世紀にかけて信じられていた伝承です。

ドイツでは『Wild Jagd(猛々しい狩り)』『Wildes Heer(猛々しい軍)』と呼ばれました。

日が短くなる10月末から冬至にかけて北欧神話の主神オーディンが8本足の軍馬スレイプニルに跨り狩猟道具を携え、猟犬や猟師たちを引き連れて空や大地を大挙して移動していくさまをいい、一団がやってくると雷のような轟音が響き渡り、それに魔物や猟犬の遠吠えや蹄の音などが重なり、耳を劈くばかり…

猟師たちは死と関わる妖精、亡霊や精霊、悪魔などで、この狩猟団を目にすることは、戦争や疫病といった、大きな災いを呼び込むものだと考えられていました。

目撃した者は死を免れなかったとも…。

他にも、狩猟団を妨害したり、追いかけたりした者は、彼らにさらわれて冥土へ連れていかれ、彼らの仲間に加わる夢を見ると魂が肉体から引き離される…と怖れられていました。

ノルウェーではガンドライド「魂の騎乗」とも呼ばれ、過去1年間に亡くなった人々の魂が空を駆け抜け、ガンドライドが通過した地域の土地は肥沃になると信じられていました、このガンドライドも、冬至から年明けの頃最も盛んになるとされました。

自然現象が科学的に解明される以前のことです。秋が深まり冬至に向かう時期は雪嵐が多くなりますから、それらの自然現象をオーディン軍団の到来にイメージを重ねて怖れていたのでしょう。

子供たちはそんなお話をさぞ怖がっていたのかと思いきや、オーディンの乗る6本足の軍馬スレイプニルの為に靴下の中に干し草や砂糖を入れて暖炉の傍に置いて眠りにつくと、夜やって来るオーディンがプレゼントを入れておいてくれる…そんな楽しみが待っていたそうです。🎁 🎁 🎁

*アメリカ発の商業主義的なクリスマスの演出が進むと、北欧神話で活躍する8本脚の軍馬スレイプニルは8頭のトナカイに、それに跨るオーディンはサンタクロースに姿を変えていったといわれています。

            ユール・ボード Julbord 

クリスマスを祝う料理を並べたテーブルを「JULBOAD(ユールボード)」と言います 直訳すると「クリスマステーブル」

北欧ではユールには祖先の霊が帰ってくると考えられていましたから、故人の好んだ料理を作って並べ、馬の手綱を解いて、故人の霊が乗れるようにして迎えていました。フィンランドでは今でもイブの夕刻に墓参に出かけ献火して、墳墓に料理をお供えする習慣が続いているそうです。

ポインセチアやヒイラギ、ヤドリ木など、冬でも元気な植物で家を飾り、先祖の霊を迎え、神話の神々そして身近にいると信じられていた小人の妖精たちのためにも料理を用意して家族そろって食卓を囲むのが習わしとなっています。

料理は1月6日の公現節まで連日用意され、それをおこたるとクリスマスの幸せが出て行ってしまうとされています。

そして1月7日にはドアや窓をあけて「ユールよ、出て行け!」と壁を叩きながら叫ぶ…

現在でも北欧やドイツのクリスマスのユール・ボードのテーブルは、ご先祖様たちが神々に豚を捧げていた伝統を受け継ぎ、『豚肉のハム』がメインディッシュです。

スウェーデンでは『ユール・シンカ』、ノルウェーは『ユールグリス』、フィンランドでは『ヨウル キンックKinkku" 』と呼ばれています。

ユールは『クリスマス』そしてシンカは『豚のお尻』です🎉。

作り方はいたって簡単 でも、仕上がりは美味しく華やか!

塩漬けされた豚もも肉の塊を低温を保ちながら加熱(オーブンを120℃設定にして2時間)…その後 いったん取り出して肉の表面にマスタードをぬり、パン粉をふりかけて再度オーブン庫内へ…今度は高温で表面に美味しそうな焼き色がつくまで焼き上げる!というもの…(低温加熱はボイルすることも可能です。その場合湯温を65℃ほどに保って30分が目安!)

薄くスライスしてりんごジャムをつけて食べるのが定番です。

 

               幸せを運ぶ 豚

現代 ブタは畜舎に囲い込んで飼育されるのが一般的ですが、欧州全土が森に覆われていた頃、豚は村を取り囲む森の中に放し飼いにされるのが一般的でした。

ブタさんたち 秋の間木の実をたっぷり食べて肥え太ります。そんな豚を初冬に捕らえて、屠畜して料理するのがヨーロッパの中北部の風物詩だったようです。

木の実には精霊が宿っているとされていましたからドングリやミズナラといった木の実を食べて太る豚は豊かな森の恵みの象徴です。多産で貴重な食料である豚は繁栄と豊穣のシンボル:聖獣とされ、豊穣を司る神にも生贄として捧げられたのです。

ユール・ボードのテーブルの主役は豚のハム…とはいえ、全ての家庭で豚の塊肉を用意できるわけではありません。貧しい人たちは代わりに豚を形どったパンを作ったと言われています。

今でもユールの季節のパン屋さんには豚モチーフのクッキーが飾られます。

そして各家庭で焼くスパイスたっぷりのクッキーも豚さんモチーフは欠かせません。


ドイツの人たちは「ラッキー~✨」運が良いと、「Icn habe Schwein gehabt.」=「豚を手に入れた❗️」といいます。それほどに豚さんは幸運の象徴…さらにクローバーや、てんとう虫も一緒だとよりパワーupのようですょ。

左)ミュンヘンのデパートのショウウィンドウに飾られたシュタイフベア四つ葉のクローバーをくわえたピンクのブタさんを抱いています💕

(右)同じくミュンヘンにて ピンクのマジパン製ブタちゃん