『Speculaas スペキュロス』『Spekulatius シュペキュラティウス』

 

スパイスが効いてサクッとした食感 浮き出たレリーフ模様が楽しい『スペキュロス』は、ベルギーやオランダ、北フランス、そして隣接するドイツでは大聖堂が有名なケルンや日本企業が多数進出するデュッセルドルフのあるヴェストファーレン州、ワインで有名なモーゼル地方のあるライラント・プファルツ州でクリスマスシーズンに焼かれてきた伝統的な名物菓子です。

各地で綴りや呼び方が違いますので、ご紹介しますね。

『Spekulatius』…ドイツ語発音で「シュペキュラティウス」「スペクラチウス」

『Speculaas』… オランダ、ベルギーでは「スペキュロス」「スペキュラース」

『Speculoos』… フランス語発音で「スペキュロス」

このスペキュロス 既に現在のドイツ、フランス領で定着していた蜂蜜スパイスパン:『レープクーヘン』などから派生して作られるようになったもので、ネーデルランド(現ベルギーとオランダ地域)に残る14~15世紀の文献に、その記録を見ることができます。

特徴は薄く焼き上げることで、13~14世紀当時は生地の材料も作り方も基本は『レープクーヘン』と同じだったと考えられます。

木型に生地を入れ、押し付けて成形したら焼く… ただし、木型を薄く彫り、薄い仕上がりにしたのです。 それは今の『クッキー』につながるお菓子の誕生でした。

その後…スペキュロスは調達しやすくなったバターや卵などを材料に加えたり、19世紀初頭に登場する甜菜糖を取り入れることで風味豊かに進化してきました。

その作り方は、材料を合わせて生地を作り、木型に生地を押し入れて、成形したら、焼き上げます。

由来  

歴史あるお菓子ですから名前の由来もさまざまで、

☆3~4世紀に生き、数々の奇跡を起こして貧しい人々を救ったとされる大司教サン・ニコラ(聖ニコラウス)に敬意を表してラテン語の『司教 Speculator』から…  ☆オランダ語でスパイスを意味する『Specerij』「スペサライ」に由来する。

☆木型で成形した生地を外して焼き上げるため、クッキーに現れるレリーフは型のデザインを鏡で見たようになるため、ラテン語の『Speculum』「鏡」に由来する…など

サン ニコラの日の祝い菓子 

今では1年中食べられるスペキュロスですが、長く『サン ニコラの日』のための祝い菓子として、オランダでは12月5日、ベルギー・ドイツ・フランスでは12月6日の祝日を中心に食べられてきた伝統があり、今も昔もこの日の主役は子供達です。子供の守護聖人として崇められるサン ニコラ(聖ニコラウス)の誕生を祝うこの日は、子供の日としても祝われきました。

12月5日の夜シンタークラースがやってきて、1年間行儀良く過ごした子供たちの靴下にはスペキュロスやみかん、りんご、おもちゃや本などのプレゼントをたくさん入れてくれる。 一方お行儀が悪かった子供たちはシンタークラースの黄麻布の袋に入れて運び去られてしまう!といわれるのですから、期待と一抹の不安で眠りについた子供達が迎える翌朝 プレゼントでいっぱいに膨らんだ靴下を見つけて喜びと安堵を得る瞬間は、長く記憶に留まる素敵な思い出になることでしょう…。

その日プレゼントのスペキュロスをホットココアとともに楽しむのも幼い日の嬉しい時間…スペキュロスは子供達にとって、スペシャル感いっぱいのお菓子です。

 スペキュロスの風味に欠かせないもの …『スパイス』と『甜菜糖』と『膨らし粉』 

*スパイス

工場生産品が出回り、1年中口にすることができるお菓子になったとはいえ、ホームメイド派もまだまだ健在!11月に入ると、スーパーの棚に専用のミックススパイスが並び、型抜き用の木型やローラーも売り出されます。

(左)『専用ミックススパイス』使われているスパイスは、もっとも存在感が強い『シナモン』に加え、クローブ、コリアンダー、オールスパイス、フェンネル、スターアニス、(中央)型抜き用のローラー、(右)木彫りの型 ↓

以下はドイツ ケルンに暮らす知人が「母から受け継いだ…」と教えてくださったレシピです。

砂糖    1+1/4cup  …「リューベンツッカー」:甜菜糖

バニラシュガー  大1

バター   7oz(オンス)… 1oz=約28gから約200g

卵     大2個

小麦粉   4+1/4cup

鹿角塩   1/2ts(ts:ティースプーン)ベーキングパウダー使用の場合は1ts

塩     小1/4

シナモン  1ts

クローブ  1/4ts

カルダモン 1/4ts 

*甜菜糖

砂糖の二大原料は「甜菜(砂糖大根、ビート)」と「甘藷(サトウキビ)」です。

どちらの原料でも精製を進め、砂糖の純度を高めると、その成分はほぼ同じ「ショ糖 Sucrose 」になりますが、精製純度の高くない製品「粗糖」は、糖分以外の成分が多く残るため、その残留成分の風味や特性が現れ、個性豊かな砂糖になります。

ヨーロッパでは、18世紀半ばにドイツで甜菜(サトウダイコン)から砂糖を分離する技術が開発され、19世紀初頭には各地で甜菜糖生産が工業化されたため、地域で栽培される甜菜から作られる甜菜糖を安価で入手し、使用できるようになりました。

甜菜糖はその精製過程で多様な製品が作られ、販売されています。

一般家庭の料理用としては、精製純度が高く、白くて雑味のないものが使われますが、伝統菓子には好んで精製レベルの低い「粗糖」が使われます。

「粗糖」は含有成分の色が反映して薄茶~濃い褐色をしていますし、風味もさまざま… スペキュロス作りには「カラメルのよう」「穏やかなモルトのよう」などと表される甜菜粗糖の個性を上手に選んで使うとホームメイドの本領を発揮できるため、お砂糖選びはこだわりどころ!になっています。

*膨らし粉

パンを膨らませる酵母やイーストは自然界のどこにでも存在し、乳酸菌などと共存している微生物です。酵母は『糖』特にブドウ糖が大好物なので、食品に取り付き、その糖を食べて分解します。その過程で『アルコール』と『炭酸ガス』を作り出す…この現象を『発酵』と呼んでいます。

小麦粉やライ麦粉に水を加えてこね、そのまま放置しておくと、発酵が進み、生地の中で糖を食べた乳酸菌が放出する炭酸ガスによって生地が膨らむ…古代エジプトの人々はすでにこの現象に気づき、上手に利用してふっくら焼きあがった発酵パンを焼いていたそうです。昔の人の観察眼とチャレンジ精神は素晴らしいですね…

とはいえ、酵母の発酵には時間がかかります。

25~35℃の気温のもとでは絶好調で、順調に発酵が進みますが、冷涼地や冬場になるとパワーダウンするのも悩みどころでした。

どんな気候条件下でもパンのふっくら食感を実現させてくれる物質はないものだろうか… そんな模索が長く続き、まず発見されたのは『炭酸アンモニウム』その後『重曹』『ベーキングパウダー』へと続きます。

『鹿角塩 Hirschhorn-salz ヒャシュホーンザルツ』『炭酸アンモニウム』

動物の角や皮からとれる成分で、無色の結晶または白色の粉末です。

加熱されると熱分解し、『二酸化炭素』と『アンモニア』と『水』に変わります。

これをお菓子の生地に混ぜて焼くと、分解して生地の中に多数の小さな二酸化炭素ガスの空洞ができることでふっくら生地に焼きあがるというわけです。

ただし同時にアンモニアガスも発生しますから、焼きあがったパンやお菓子にもアンモニアの残り香が刻まれてしまうのは免れない…

ドイツと近隣諸国では昔から使われ、レープクーヘンなどのスパイス菓子に加えることで、ふっくら食感を実現させてきた貴重な食材。代々使い継がれ、幼い頃から親しんだほのかなアンモニア臭のするスィーツは郷愁を誘うのでしょう…今でも伝統菓子をつくるなら『鹿角塩』!が優勢です。薄く焼きあげるシュペクラチウスに加える量はほんの少しですが、ほのかなアンモニア臭あっての伝統菓子 鹿角塩は健在です

『重曹』 炭酸水素ナトリウム

加熱すると『炭酸ナトリウム』と『水』と『二酸化炭素』に分解し、この時に出る二酸化炭素が細かい気泡となって生地を膨らませます。

炭酸ナトリウムには独特の苦味があるため、焼き上がりの風味に影響することがあり、好き嫌いが分かれるところです。また生地を横方向に膨らませる性質をもち、これが伝統菓子に好まれて使われることも多いようです。

 

『ベーキングパウダー 』

父親がパン屋だったドイツの薬剤師Augusut Oetkerは、父が酵母菌を使ってパンを焼く姿をみて育ちました。そこで彼は温度管理の必要がなく、安定した品質の新たな膨張剤の開発に取り組むのですが、彼が考える理想の膨らし粉の条件は、

・発酵の手間をかけずに、生地を軽くふっくら膨らますことができる。

鹿角塩は放置するとアンモニア臭を放ちながら分解し、すぐに変質してしまうため、変質しにくく、安定した性質をもつこと。

・無臭でお菓子の風味を損ねないこと、 …でした。

研究を重ね、開発に成功すると、1891年には販売が開始されます。1903年には特許も取得し、商品名は『Backin』…ベーキングパウダーの誕生です。

以来世界中で使われ、その使い勝手の良さは周知の通りですが、伝統菓子には『鹿角塩』や『重曹』が選ばれる…それぞれの良さがありますから!

国際派のクッキーに…

 

「スペキュロス」という名前に馴染みがなくても、『Lotus のカラメルビスケット』に見覚えがある方は多いのではないでしょうか?

カルデイや成城石井などの輸入食材店の棚に並んでいますね。

量産品を海外輸出しているベルギーの会社『Lotus ロチュス』の商品で、アメリカや日本への輸出用商品は「カラメルビスケット」とされていますが、フランスでは同じ商品が「スペキュロス」として販売されています。

ちなみにLotus のカラメルビスケットのスパイスはシナモンのみ!バターではなく植物油が使われているようです。

他メーカー商品も多数輸入されていますから、それぞれ食べ比べてみるのも楽いです

軽量で安価そして日持ちがする…なによりコーヒーに合う!4拍子揃った伝統菓子のスペキュロスは今や国際派です

以下日本国内に輸入されている「スペキュロス」です。全てベルギー産

どの商品も『カラメルビスケット』と紹介されていますね。

左から Lotus ロータス、Belgiun・Tresure ベルジャン トレジャー、Poppies ポピース、Vermeiren ベルメーレン

 

Maison Dandy メゾン・ダンドワ 

 

ベルギーからは老舗も日本上陸しています。 

1829年 ブリュッセルに創業したベルギー最古の焼き菓子店Maison Dandy メゾン・ダンドワ 

ベルギーといえば…『ワッフル』!ですから当然看板商品ですが、そのワッフルと並んで人気なのが『スペキュロス』です。

シナモンやクローブが絶妙に配合された『スペキュロス』に加え、スパイスは加えずバニラビーンズのみ使用した『スペキュロス バニラ』、生地にスライスアーモンドをトッピングして焼き上げた『アーモンドブレッド』が揃います。

 所在地は大丸東京店地下1階食品フロア

 

ベルギー店のHPではレシピが公開されています‼️ ご参考まで…

 

speculoos-recipe_maison-dandoy.